あえて“不便”を求める「お預けニーズ」
中でも新たなニーズとして台頭したのが「お預けニーズ」です。Z世代にとっては、欲しいものや買いたいものはワンクリックで手に入るのが普通。しかし、コロナ禍で退屈時間が増えたのを機に、そんな普通の方法では手に入れられないものを求める若者が増えてきました。
特に顕著だったのが、スマホではなくあえて不便なカメラで撮影にチャレンジしたいというニーズです。使い捨てカメラはコロナ前から流行していましたが、2019年末にキヤノンが手のひらサイズの新コンセプトカメラ「iNSPiC REC」を発売すると、これが若者を中心に大ヒット。
デザイン性が高く、カラビナ付きという点も特徴的で、これをキーホルダーのようにバッグにぶら下げて公園などを散歩する若者も多かったようです。
スマホの普及で、写真や動画は気軽に撮れてその場ですぐ確認できるものになりました。しかし、「iNSPiC REC」はフィルムカメラと同じく、撮った写真や動画をその場で確認することはできず、スマホやPCに転送して初めて見ることができる仕様になっています。
なぜわざわざ不便なものを使うのか
せっかくスマホがあるのに、なぜわざわざ不便なものを使うのかと疑問に思う人も多いでしょう。意外なことに、Z世代にとってはその不便さこそが特別感につながっているようなのです。
背景には、人とは違うことをしたいという差別化ニーズや、「どんな写真が撮れているんだろう」というワクワク感へのニーズがあると考えられます。これは、目的のものを手に入れるまでにかかる「手間」そのものへのニーズとも言えるでしょう。
同じ特徴を持った商品に、アメリカの人気YouTuberが開発した写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」があります。これは、撮影した日の翌朝9時にならないと写真が"現像"されない仕組み。「iNSPiC REC」と同じように、どう撮れたかがその場ではわからず、ワクワク感があるということで若者の人気を集めました。
撮影する楽しみは外で味わい、とった写真を見る楽しみは家で味わうというように、2度楽しめる点も若者を惹きつけているようです。あえてつくられた「待ち時間」に魅力を感じるのは、Z世代ならではの特徴と言えるでしょう。
似たような傾向はコロナ前から見られましたが、退屈な時間が増えたことでより強まったように思います。