海vs.陸の対立があらわになったG7サミット。その後、アメリカは中国とロシアを分断させようとロシアに急接近している。地政学者の奥山真司氏は、「共通の敵をつくると仲間意識が強まるのは、国際政治ではよくあること」と話す。今、アメリカ、中国、ロシアの三者で揺れ動く、国際情勢の実情とは――。
アメリカ、ロシア、中国チェス
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中国を孤立させるにはロシアの力が必要

2021年6月に行われたG7サミット(主要7カ国首脳会議)では、民主主義vs.権威主義といった対立構造が浮き彫りになりました。地政学的にいうと、アメリカやイギリス、日本など国境の多くが海洋に面する「シーパワー」と中国やロシアなどユーラシア大陸内陸部の「ランドパワー」の戦いがはっきりと見えたのです。

しかしながら最近になって、アメリカはロシアに急接近しています。G7サミット後の米ロ首脳会談では、バイデン氏とプーチン氏は2時間以上もしゃべっていたといいますから、会談はかなり盛り上がったよう。なんといっても遅刻魔で有名なプーチン氏が、時間どおりにやってきたわけですから……意外といい関係を構築できたようですね。

アメリカがロシアに近づく思惑は明白です。アメリカとしては、とにかく敵は中国。なので、アメリカからすれば「ロシアはとりあえず中国とあまり仲良くせずに、大人しくしていて」。これが本音だと思います。

今から約50年前、アメリカで1969年にはじまったニクソン政権にキッシンジャーという大統領補佐官がいました。ご存じの方もいらっしゃるでしょう。そんな彼がある1つの戦略的転換を思いつきます。

当時、冷戦下でアメリカとソ連はぶつかっていましたが、ソ連と中国は同じ共産主義で仲良くやっていこうとアメリカを敵対視していました。そこにキッシンジャー氏は、極秘に中国を訪れて当時の周恩来首相と会談。その翌年にニクソン大統領の訪中を実現させました。

つまり「ソ連と中国」対「アメリカ」を、「ソ連」対「中国とアメリカ」にして、ソ連と中国を分断させようとした。敵の大国が2つとも戦いをけしかけてきたらまずい、どちらかを味方に引き入れようとキッシンジャー氏は暗躍したわけです。実際、それが功を奏して、1988年ごろからソ連は崩壊に向かっていきました。

今、アメリカがロシアに急接近しているのは、このときの成功体験があったからです。「俺たちはユーラシア大陸の陸の大国を二分割することで勝てたんだ」と。だからロシアを海側に引き入れて、中国を孤立させようとしているのです。

今はとにかく人口も多くて力があるのは中国。アメリカからすると、ロシアは人権侵害をしていたり、他国にスパイを送り込んだり、不信感もあるけれど、中国をなんとか押さえ込むためにはロシアの力が必要なのです。

とはいえ、アメリカにはロシアを嫌いな人もいっぱいいます。そういう人たちがいる中で「敵は中国だから、なんとかしてロシアを囲い込みたいよね」というのが今のアメリカ。この三者のバランスが揺れ動いているのが、今の国際情勢の実情なのです。