「耳に“小さなコンピューター”が挿さっている」生活
【宮坂】僕は中でも、イヤホンの方に注目しています。みんなの耳に、常にちっちゃいコンピューターが入っている状態になる。通勤途中だけでなく、仕事をしているときも遊んでいるときも常にイヤホンをつけているのが普通になるでしょう。そのときの新しいコミュニケーションとか会話のあり方をBONXで作りたいと僕らは考えています。
【八木】聴覚の拡張って、もはや「人間の拡張」なんじゃないかと思うんですよね。視覚の拡張ではVR(仮想現実)がありますが、あのゴーグルはずっとつけているわけにはいかない。でもワイヤレスイヤホンって、電池さえ切れなければ一日中つけていられるんじゃないかと思うんです。」
この間僕、会社を出てワイヤレスイヤホンのケースを開いたら中身がなくて、「なくした!」って思って焦ったんですけど、耳に挿さったままでした(笑)。
【緒方】めがねを頭にのっけたままで「めがねがない、めがねはどこ」って探すみたいな(笑)。
【八木】そうなんですよ。もう、めがねと同じで、人体の一部に限りなく近いなと。コエステさんのような技術があれば、自分の代わりに声を出してくれるようになりますし。
しゃべることって、とても原始的なコミュニケーションです。今起きている変化は、人間の感覚を拡張する感じがします。だから音声の領域ってワクワクするんですよね。
居酒屋ではイヤホンをしたまま会話
【緒方】2019年にAirPods Proが出たときに、ノイズキャンセリング機能だけでなく、イヤホンの外の音も聞こえるようにしてきたのにはびっくりしました。イヤホンが聞かせる音の世界を大事にしつつ、さらにイヤホンの外の音声を重ねてくるという思想です。聴覚が拡張したというか、耳が外に飛び出たような感じだなと思って。
【宮坂】オーディオ・トランスペアレンシー(audio transparency)ですね。「外部音取り込みモード」などと呼ばれています。アップルは、こういう機能を搭載することで、イヤホンを常に耳につけていてほしいのだというのがわかります。
【八木】音が「抜ける」技術ですね。
【金子】音が「抜ける」ってどういうことですか?
【八木】イヤホンをしていても、周囲の音声が、限りなく自然に、イヤホンをしていない耳で聞いているように聞こえるというものです。
【宮坂】AirPods Proのオーディオ・トランスペアレンシーの技術は、本当にすごいんですよ。
何がすごいかというと、「定位感」があるんです。どこから聞こえてくるかがわかる。
一度マイクで収音して、それをイヤホンの中で聞かせるだけだと、どの方向から聞こえているかがわからなくなるんです。それって、ものすごく気持ちが悪い。アップルは、定位感を保ったままイヤホンの中で鳴らしています。それを、ほとんどレイテンシー(遅延)なく実現しているというのは、めちゃくちゃすごいことなんです。
この技術がこの先どこに向かうかと言うと、例えば騒がしいレストランや居酒屋などで、自分の目の前にいる人の声だけを強調して聞かせられるようになります。
居酒屋で友達や家族と一緒に同じテーブルを囲んでご飯を食べながら話しているんだけど、イヤホンをつけているという状態ってちょっと不思議な感じがしますけど、そういう機能があるイヤホンなら、つけている方が快適に会話ができるわけです。
ビジネスデザイナー、公認会計士。大阪大学基礎工学部卒業後、同大学経済学部も卒業。2006年に新日本監査法人に入社し、その後Ernst & YoungNew York、トーマツベンチャーサポートを経て起業。2015年医療ゲノム検査事業のテーラーメッド株式会社を創業、2018年業界最大手上場企業に事業売却。2016年音声プラットフォームVoicyを開発運営する株式会社Voicyを創業。同時にスタートアップ支援の株式会社Delight Design創業。新しい価値をビジネスで設計するビジネスデザイナーとして10社以上のベンチャー企業の顧問や役員にも就任し、事業戦略、資本政策、サービス設計、PRブランディング、オープンイノベーション設計、その他社長のメンターやネットワーク構築を行う。著書に『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)
2005年、東芝入社。クラウドTVやメガネ型ウェアラブル端末等の新規事業の立ち上げなどを経て、2016年に音声合成技術を活用した声のプラットフォーム「コエステーション」事業立ち上げ。2020年2月にエイベックスとのJVでコエステ株式会社を設立し、東芝デジタルソリューションズから出向して執行役員に就任。
東京大学教養学部、東京大学大学院総合文化研究科修士課程を経て、2011年、ボストンコンサルティンググループに入社。2014年、チケイ株式会社(現株式会社BONX)を創業し、代表取締役CEO就任。2015年にスマートフォンアプリと連動してグループトークができるウェアラブルコミュニケーションデバイス「BONXX」を発表。スポーツ/小売/介護/飲食/宿泊/病院/建築現場/リモートワークなどさまざまな場面で活用されている。
2008年リコージャパン入社。楽器EC事業での起業を経て、2013年ウェブメディア事業を行う株式会社オトナルを創業。2018年にウェブメディア事業を売却し、2019年から音声領域に特化。広告主向けのアドテクノロジーを活用した音声広告プランニングと、ラジオ局や新聞社などメディア企業へのデジタル音声広告実装支援を展開している。著書に『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本 人気講師が教える新しいメディアの基礎』(インプレス)