国民の10%が被害者

フランスでは1985年ごろから数人の被害者が、著作やテレビ出演などで近親姦を証言し、注目されることはあったが、これまでは「特殊な家庭での例」としてしか捉えられてこなかった。

しかし2020年11月、市場調査コンサルティング会社Ipsosが、被害者団体の要請で18歳以上の国民を対象に調査を行い、10%にあたる約670万人が、未成年の時に近親者からレイプ、あるいは性的虐待の被害に遭っていたことが明らかになった。被害者の78%が女性、22%が男性だった。また、別の統計になるが、国立非行刑罰監査局が2020年12月に発表した調査結果によると、被害者の53%が4歳未満で、22%は5歳から9歳の間に被害に遭っている。

さらに、近親姦が社会問題として捉えられるきっかけとなったのが、今年2021年1月のデュアメル事件だ。

高名な憲法学者の加害が明るみに

憲法学者として名高く、テレビやラジオで解説者としても国民に親しまれていたオリヴィエ・デュアメル氏が、義理の息子(本の中では「ヴィクトール」と呼ばれる妻の連れ子)を、13歳頃から数年にわたってレイプしていたことを、被害者の双子の姉であるカミーユ・クシュネール(Camille Kouchner)氏が1月に出版した著作『ラ・ファミリア・グランデ』(La Familia Grande)の中で明らかにしたのだ。さらに法曹界の要人数人は「事実を知りながら告発しなかった」と批判され、次々に要職を辞した。

カミーユ・クシュネール氏が義父による近親姦を告発した著書 写真=プラド夏樹
カミーユ・クシュネール氏が義父による弟に対する近親姦を告発した著書 写真=プラド夏樹

著者と被害者の実父が元大臣だったこともあり、この本は大きな反響を呼び、初版7万部が数日で売り切れ、1カ月で20万部を売り上げた。

今年4月14日にデュアメル氏は、警察で近親姦の事実を認めた。憲法学者、元欧州議会社会党議員、国立政治科学基金会長、さらに、法曹界の重鎮で、法の公布前に合憲性を審査する機関である憲法評議会の次期会長と噂されていた同氏が近親姦の加害者であったことに、国民は驚愕した。

そしてこの事件をきっかけに、政治家、俳優、労働組合のリーダーなど有名人数人が立て続けに近親姦で訴えられた。

これまで近親姦は、「家族全員が同じ部屋で寝るような住宅環境で起きる、貧困層に特有な犯罪」と考えられることが多かったが、実は、経済状況も教育程度も関係なく、あらゆる社会階層で起こり得る犯罪であることが明らかになった。

近親姦はほかの性暴力とどう異なるのか

先のデュアメル事件を含む3つのケースを例に、被害者団体が新法審議にあたって考慮すべきと主張していた近親姦の特徴や、日仏の法律が抱える課題について説明したい。

「あの子の方から誘ったんだ」:デュアメル事件

『ラ・ファミリア・グランデ』によれば、デュアメル氏は、妻が両親2人を自殺で亡くしたショックでアルコール依存症になった頃から、子どもたちの面倒をみるようになっていた。その一方で、著者の弟である義理の息子(当時13歳)をレイプし始めたという。

弟は双子の姉である著者に、近親姦の被害に遭ったことを打ち明ける。

「義父さんは、『ママンはとっても疲れているから、今はこのことは言わないで2人だけの秘密にしておこう』って言うんだ。おじいちゃんもおばあちゃんも自殺してつらい時だから、そっとしておこうって。だからお姉ちゃんも誰にも言わないでね」と。