トヨタには、長年すべての生産現場で使われ成果をあげている「日常管理板」があります。「誰が何をするべきなのか」がひと目でわかり、マネージャーもメンバーも仕事が楽になるという、魔法のようなマネジメントツールは、一体どのように生まれたのでしょうか――。

※本稿は、OJTソリューションズ『トヨタの日常管理板 チームを1枚!で動かす』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

トヨタ車のロゴ
写真=iStock.com/MoreISO
※写真はイメージです

なぜ日常管理板が生まれたのか

マネージャーの皆さんの中には、もしかしたら日常管理について、「日々メンバーの仕事をチェックするなんて、よけいな仕事を増やしたくない」「メンバーたちだって、管理が強化されると感じて嫌がりそう」と思う方もいるかもしれません。

しかし、多くのトヨタ出身トレーナーが口をそろえて言うことがあります。それは、「日常管理板は仕事を楽にするためのもの」ということです。

トヨタの堤工場で工作設備の保守保全に努めてきたベテラントレーナー大嶋弘が、そもそもなぜトヨタで日常管理板が生まれたのか、その経緯について教えてくれました。

「トヨタのマネージャーになるステップは、まず、入社10年目くらいの社員から選ばれる『班長』になるところから始まります。現場のリーダーとして、はじめて10人弱のメンバーを持つのです(2000年頃の基準)。その次が数人の班長を束ねる『組長』です。現場リーダーである組長は、もともとはあこがれの職制でした。ところが、当時の実態は監督職であるにもかかわらず、製造ラインの細かな生産管理に追われて、現場作業から抜けられず、非常に負担の重いポストになっていました。

やがて、組長になることを忌避する風潮が生まれ、その結果、改善活動も停滞し始め、『弱い職場』になっていってしまったのです」

管理ボードの活用で「組長頼り」脱却へ

その状態に危機感を覚えてトヨタで始まったのが、「組長の働き方改革プロジェクト」だったと言います。「労使一体となって、組長がマネージャー業務に専念できる環境づくりに取り組みました。

それまでは『困ったときの組長』といわれるくらい、何から何まで組長のもとに持ち込まれ、現場対応に忙殺されていたのですが、現場の管理をメンバーに分散させて組長の負担を軽減。トヨタの日常管理板のもととなった『管理ボード』を作成して、各自がやるべきことを明確にしました。

これにより、方針達成に向けた長期的な取り組みが可能になり、各メンバーがどのように仕事に取り組んだか、そのプロセスを評価することも可能になりました。メンバーも仕事がしやすくなり、自律的な改善が活発化し、再び『強い職場』が戻ってきたのです」