この点は、知らない分野の数字を見るときは特に重視しています。例えば部下が「利益30%増を目指す」と言っても、私にはその達成にどれだけの労力が必要なのか、そもそも実現可能なのかがわからないわけです。なのに何となくOKしてしまったら、実際に動く人が大変な思いをすることになりますし、数字が独り歩きすれば組織全体が間違った方向へ進みかねません。こんなときは自分に「数字のうわべだけ見て判断してはいけない」と言い聞かせ、30%とした根拠や数値の定義、基準値などをしっかり聞くようにしています。
数字を入れて説明する部下には信頼感も
数字はうまく使えば言葉に勝る力を発揮します。私は新人時代、上司に売買実績を報告するとき「たくさん」ではなく「前年比の何倍」などと言うようにしていました。このほうが客観的事実として確実に伝わると実感したためです。ビジネスでは何かと比較した数字を基に話すのがベター。説得力が増し、具体的な議論にもつながりやすいと思います。
私自身も、部下から説明を受けるときは数字が入っていたほうが安心します。単に「人手が足りない」ではなく、何かのデータを基に「2人足りない」と言ってくれたら、現場をよく見ているなと信頼できますし、自分がとるべき行動も見えやすくなって助かりますね。数字に苦手意識がある人は、まず上司との会話に数字表現を入れることから始めてみてはどうでしょうか。
当社では多くのことが数字で語られます。私はそれに意味づけをし、人や社会の動きとひもづけていくことで、目の前の数字を自分の理解しやすい「手ざわり感あるもの」に変えています。単なる数字の羅列は苦手ですが、このプロセスは大好き。数字の魅力は、その背景を知ってこそ感じられるものだと思います。
今、私たちは何十兆円もの資産を運用しています。これらはお客さまからお預かりしたお金であり、1円に至るまで様々な思いが込められています。総額だけ見ているとまひしがちですが、お客さま一人一人の思いや当社職員の活動がこもったお金だということは決して忘れてはいけない。今後もそこにこだわりを持って仕事に取り組んでいきます。
構成=辻村洋子 撮影=堀 隆弘
1988年、東京大学理学部卒業。日本生命保険相互会社に入社し、資金債券部、人事部、証券管理部などでキャリアを積む。2009年、総合職としては女性初の部長に就任。アメリカに留学してMBAを取得し、2度のロンドン事務所勤務を経験した国際派でもある。18年より現職。