現実世界の出来事とひもづけて理解する

入社して最初に配属されたのは、保険料などの資産を運用する資金債券部。そこから、売買データなどのビジネス数字と向き合う日々が始まりました。と言っても、担当していたのは売買戦略ではなく、債券単価や利益などの数字を1円単位まで正確に計算する事務作業でした。ひたすら無味乾燥な数字の羅列を追いかける毎日で、正直言って私にとっては苦痛でしたね(笑)。

日本生命保険相互会社 執行役員 リスク管理統括部 部長 大澤晶子さん
日本生命保険相互会社 執行役員 リスク管理統括部 部長 大澤晶子さん

でも、そうした仕事を通して金利の仕組みに興味を持ち始め、先輩に教えてもらううち、目の前の数字の背景が少しずつわかるようになっていきました。暗号のように見える数字も、実は社会の動きの表れなのだと気づき、意味や面白みを感じるようになっていったのです。その後に証券の勉強を始めたのも、社内の留学制度に応募してアメリカで学んだのも、このとき「数字って面白い」と体感できたおかげだと思います。

私は理系出身ですが、もともとリアル感がないものには興味を持てないみたいなんです。学生時代も、波動や虚数といった目に見えないものより、虫や花などの生物観察のほうが好きでした。数字も目に見えないのでリアル感がなさそうに思えるかもしれませんが、ビジネス数字は現実社会での動きを反映したもの。裏には必ず人や社会の活動があり、私はそこに人間味や手ざわり感を覚えます。ですから、数字を見るとまず「これはどんな活動の結果なんだろう」と考えるのが習慣になっています。私にとって数字は、リアルな出来事とひもづけたほうが理解しやすいんですね。

この点は、知らない分野の数字を見るときは特に重視しています。例えば部下が「利益30%増を目指す」と言っても、私にはその達成にどれだけの労力が必要なのか、そもそも実現可能なのかがわからないわけです。なのに何となくOKしてしまったら、実際に動く人が大変な思いをすることになりますし、数字が独り歩きすれば組織全体が間違った方向へ進みかねません。こんなときは自分に「数字のうわべだけ見て判断してはいけない」と言い聞かせ、30%とした根拠や数値の定義、基準値などをしっかり聞くようにしています。

数字を入れて説明する部下には信頼感も

数字はうまく使えば言葉に勝る力を発揮します。私は新人時代、上司に売買実績を報告するとき「たくさん」ではなく「前年比の何倍」などと言うようにしていました。このほうが客観的事実として確実に伝わると実感したためです。ビジネスでは何かと比較した数字を基に話すのがベター。説得力が増し、具体的な議論にもつながりやすいと思います。

数字にまつわる愛用品●小学生の頃そろばんを習っていて、珠を上げ下げする動きが好きでした。そのせいか、今も数字を珠のように物体感あるものとして捉えています。
数字にまつわる愛用品●小学生の頃そろばんを習っていて、珠を上げ下げする動きが好きでした。そのせいか、今も数字を珠のように物体感あるものとして捉えています。

私自身も、部下から説明を受けるときは数字が入っていたほうが安心します。単に「人手が足りない」ではなく、何かのデータを基に「2人足りない」と言ってくれたら、現場をよく見ているなと信頼できますし、自分がとるべき行動も見えやすくなって助かりますね。数字に苦手意識がある人は、まず上司との会話に数字表現を入れることから始めてみてはどうでしょうか。

当社では多くのことが数字で語られます。私はそれに意味づけをし、人や社会の動きとひもづけていくことで、目の前の数字を自分の理解しやすい「手ざわり感あるもの」に変えています。単なる数字の羅列は苦手ですが、このプロセスは大好き。数字の魅力は、その背景を知ってこそ感じられるものだと思います。

今、私たちは何十兆円もの資産を運用しています。これらはお客さまからお預かりしたお金であり、1円に至るまで様々な思いが込められています。総額だけ見ているとまひしがちですが、お客さま一人一人の思いや当社職員の活動がこもったお金だということは決して忘れてはいけない。今後もそこにこだわりを持って仕事に取り組んでいきます。

私は数字をこう見ています!