お金を殖やすだけではない投資の喜び

投資について最後にもう一点、触れておきます。ここまでは投資を利殖と考えて話してきました。しかし、投資の目的は利殖だけではありません。

たとえば、自然分解するプラスチックの開発に取り組んでいる会社があり、あなたがその会社に共感を覚えたとします。そこで、その会社の株を50万円買って「投資」することにした――これは、お金を殖やすためというより、自然分解プラスチックを普及させて地球環境の改善に役立ちたいという気持ちから出すお金です。いわば、お金による民主主義です。

投資には、このように企業の思想や方針を支援し、社会に貢献しようという意味合いもあります。もし、その会社の新商品の開発がうまくいって、100万円の配当を手にしたとしても、それはあくまでも結果です。

欧米ではこうした趣旨の投資が盛んです。従来の財務指標だけではなく、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に配慮した経営をしているかどうかを重視するESG投資がその好例です。日本でも最近注目されるようになってきました。

今日では、株や投資信託を買うほかに、インターネット経由で資金を提供するクラウド・ファンディングもあり、共感する企業やNPOの活動に、誰でも簡単に投資することができるようになりました。

自分のお金を社会に還元することには、単なる利殖では得られない達成感と充実感があります。そのような種類の投資も、ぜひ視野に入れてほしいと思います。

出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年より現職。読んだ本は1万冊超。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。