ちょっと諦めてくれる人がいい
【岩波】そういう考えになったのはいつ頃ですか?
【沖田】これまでのパートナーだと今の旦那が一番つきあいが長くて、15年ぐらいになります。いろんな職業の方とつきあったんですけど、今の旦那が一番「女の仕事」みたいなものを押しつけてこない。
こちらに対して、ちょっと諦めてくれる人がいいです。
ダメな男は、みんな「努力すればできるでしょ?」って言うんです。「俺のためならできるよね」って。
でも努力したって、ADHDだからダメじゃないですか。
片づけしても「見えないものは存在しない」んです。一度冷蔵庫に入れてしまったらネギなんかボーボーに根っこ生えちゃう。だから出しっぱなしにする。見えないところに収納すると全部忘れます。
【岩波】「隠し部屋」とか言って、何でも押し込んでいる人がいますね。
【沖田】障害を理解しろとは言わないけど、できないものはできないんだと割り切ってくれる相手にしたほうがいいです。
「俺のオカン、なんでもできるから、掃除も料理もうまいから、教わったらいいよ」なんて、もう最悪。地獄じゃん、やれったってできないんだから!
【岩波】いろいろな点を諦めてくれるバツイチのパートナーが必要だ、というのは非常に明解ですね。
【沖田】「俺のこと好きなら」とか言う女々しい人がダメ。「もう今日疲れた~」とかはいいんです。「じゃあ出前頼むか、食べに行こう」で済むから。
でも「俺疲れてるから飯作れ」はダメ。私なんてちょっと前まで、レトルトのカレーですら煮すぎてグッチャグチャにしちゃったくらいなんだから。
ただ最近、ダイエットで糖質制限の料理を作るようになったら、めっちゃうまいんです。どうしてだろうと思ったら、自分のために作ってるから。私、今まで人のために料理を作ってたからダメだったんだとわかりました。人が好む味がわからなくて、「おいしくない」と言われ続けて、料理やめちゃった。
でも自分のために作ったらおいしい。
【岩波】自分の好きな味を作れれば、違いますよね。
【沖田】好きな人にもそういう感じで作ればいいんだって、やっとわかりました。
【岩波】ご自身の特性を生かしながら着実に前に進んでるのですね、今後もご活躍ください。
【沖田】ありがとうございます!
1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。医学博士。発達障害の臨床、精神疾患の認知機能の研究などに従事。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授、2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『発達障害』(文春新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書)、『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)など多数。
1979年、富山県出身。小学4年生のときに、医師よりLD(学習障害)とADHD(注意欠如多動性障害)、中学生のときにはアスペルガー症候群と診断される。2008年、漫画家デビュー。2018年、『透明なゆりかご』(講談社)で第42回講談社漫画賞(少女部門)受賞。主な作品に『毎日やらかしてます』(ぶんか社)、『お別れホスピタル』(小学館)など。