※本稿は堀滋『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
ごく初期のむし歯はむやみに削らない
歯に限ったことではないのですが、最新の医療は患者さんの体への負担をできるだけ軽くする「低侵襲治療」が主流となっています。歯の治療でもそれは同じで、健康な歯をできるだけ削らない治療が最新トレンドです。しかも、ごく初期のむし歯の場合は削らずに治すケースもあります。これは「要観察歯」の場合で、正確にはむし歯の一歩手前。むし歯は歯のエナメル質が溶け出して、穴があいた状態ですが、エナメル質が溶け出している[脱灰」という段階であれば、正しい歯磨きや歯科での削らない治療(再石灰化促進)でそれ以上の脱灰を防ぎ様子を見ます。歯の表面が白く濁ったときは「脱灰」が始まっているサインです。
穴があいてしまうと削らないといけないので、早めに歯科を受診して適切な治療を受けましょう。脱灰を自分で見つけるのは難しいかもしれません。こうした初期のむし歯を見つけるためにも、定期的な歯科でのメンテナンスが大切です。治療が遅くなるほど削る部分が大きくなってしまいます。
古い銀歯は認知症の要因に
いま認知症の要因のひとつとして「治療済みの歯」のリスクが指摘されています。それは、認知症のなかに毒物性アルツハイマー病と呼ばれるものがあり、そのリスクとしてもっとも影響が大きいとされているのが水銀だからです。こわいことなのですが、日本ではそれほど遠くない過去に水銀とほかの金属との合金であるアマルガム(いわゆる「銀歯」です)が歯の治療に使われていました。危険性が指摘されたため、30年ほど前から徐々に使用されなくなり、現在ではごく一部を除いて使われていませんが、過去にアマルガムによる治療を受けてそのまま残っているというケースがあります。
歯に詰められたアマルガムからは1日平均1~10㎍(マイクログラム)の水銀が放出されているといわれます。除去したほうがいいのですが、なんの対策もしないとアマルガムそのものやガス化した水銀を飲み込むことがあるのでとても危険です。安全に除去するために、除去したアマルガムがのどに落ちないよう「ラバーダム」というカバーをして施術する歯科医を選びましょう。ラバーダムなしの除去は水銀の害を広げてしまう危険性があります。