1時間を超える通勤は失業と同じくらいネガティブなインパクト

あなたの通勤時間は片道何分ですか? ちなみに、私の通勤時間は0分。

主に自宅の書斎で仕事をして、ミーティングもオンライン会議サービスのZoomを使っているので、講演会や講座などの仕事を除けば日々の仕事はほとんど自宅で事足ります。

星 渉、前野隆司『99.9%は幸せの素人』(KADOKAWA)

新型コロナウイルスの影響で在宅ワークとなり、通勤時間がなくなったり、時差通勤で満員電車を回避する生活を体験した人もいるかと思います。その際、ストレスの軽減を感じた人も多いことでしょう。

カナダのブリティッシュコロンビア大学准教授のエリザベス・ダンなどによれば、通勤に片道1時間以上かけることは仕事での幸福度にネガティブなインパクトを与えるといいます。しかも、そのインパクトは失業した時と同じくらい(!)といいますから……。

夢のマイホームを郊外に買い、通勤時間が片道1時間以上かかるようになった……というのはよくある話ですが、マイホームを買って幸せになったと思いきや、通勤時間のネガティブインパクトで、「思っていたより幸せではない」という人も多いはずです。

また、「通勤時間が0分から22分に増えたことによる幸福度の低下を相殺するためには、通常の収入の3分の1が増えなければ効果がない」というスイスのチューリッヒ大学の研究結果もあるくらいです。

通勤時間の短縮は企業業績を上げる

仕事で不満を抱えていたり、ストレスを感じていたら、まずは通勤時間を短くしたほうが早いかもしれませんね。

「そう言われても、急に“じゃあ短くします”なんてできないでしょ!」

……確かにそうかもしれません。でも、最近では「通勤をしない」、もしくは「通勤時間をラッシュ時からずらす」という取り組みを始める企業が増えています。

そしてその取り組みは、そこで働くスタッフのストレスを軽減するだけではなく、実は会社の業績向上にもつながっているのです。そんな事例が日本にもあります。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社が2016年7月から始めた「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)という取り組みがあります。

これは、「働く場所・時間を社員が自由に選べる」という人事制度。その主な取り組みは、私たちが働いている環境と比較すると少し驚くかもしれません。

会社員なのに通勤時間ゼロを実現した方法

「会社勤めの私には無理な話……」と思うかもしれませんが、実際に私の生徒で、会社員であるにもかかわらず通勤時間を減らすどころか“ゼロ”にしてしまった例があるのでご紹介しましょう。

40代女性会社員のHさんは、週5日、8時間勤務で働いていました。副業OKの会社ということもあり、空いた時間で心理カウンセラーとして活動していました。次第にお客様も増えたため、有休などを使い、平日も心理カウンセラーとして活動するようになりました。ただ、有休を使っても平日に会社を休むことに後ろめたさを感じてもいたといいます。

そこで、上司に「週5勤務から、週4勤務に勤務形態を変更できないか?」と直談判。何度も交渉することになりましたが、結果として業務内容は変わらないまま週4勤務。つまりは、丸1日分の往復の通勤をなくすことができたのです。

最初からここまでの成果は無理かもしれませんが、「会社員には通勤時間を短くするなんて無理」という考えこそが、「自分を苦しめる原因となっている正しいと思い込んでいること」かもしれませんね。

通勤時間を短くできないのであれば、2週間に1回、平日に有休を使うなど、会社に行かなくてもいい行動計画を立ててみましょう。

星 渉(ほし・わたる)
作家、ビジネスコンサルタント

Rising Star 代表取締役。1983年仙台市生まれ。大手企業で働いていたが岩手県で東日本大震災に被災。生死を問われる経験を経て「自分の人生の時間はすべて好きなことに費やす」と決め、独立起業し、心理療法やNLP、認知心理学、脳科学を学び始める。それが原点となり、個人の起業家を対象に「心を科学的に鍛える」ことを中心に置いた独自のビジネス手法を構築。国内外で「好きな時に、好きな場所で、好きなシゴトをする個人を創る」ために活動している。『神メンタル』『神トーーク』(KADOKAWA)はシリーズ累計20万部突破のベストセラー。最新刊は慶應義塾大学の前野隆司教授との共著『99.9%は幸せの素人』(KADOKAWA)。

前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

1984年東京工業大学卒業、86年東京工業大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。著書に『幸せのメカニズム』(講談社)、共著に『ウェルビーイング』(日本経済新聞出版)、『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)など著書多数。