※本稿は前野博之『成功する人ほどよく寝ている』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
現代人に忘れ去られたブドウ糖以外のエネルギー源
人間が活動をするためにはエネルギーが必要になるのだが、食事をするときの注意点は、とにかく血糖値を安定させることである。
摂った糖質は消化されてブドウ糖になり、腸から吸収されてすぐにエネルギーとして使われる。脂質やタンパク質に比べてエネルギーに代わるまでの時間が短いので、エネルギー源として重宝され、白米やパンや麺類などの糖質が現代人の主食となっている。
しかし、精製された白米や白い小麦などの糖質を摂りすぎると、消化と吸収が速すぎるため血液中のブドウ糖(血糖)の量が急上昇し、血糖値の乱高下が起きて睡魔や低血糖症などを引き起こしてしまう。そのため、糖質を摂る量を抑えたほうがよいのだが、そうすると今度は生命活動のためのエネルギーが不足してしまうので、ブドウ糖以外のエネルギー源を確保する必要が出てくる。
それでは、ブドウ糖以外のエネルギー源とは何なのか? 実は、人間には主なエネルギー源がふたつあるのだ。ひとつは、これまでに説明してきたブドウ糖。そして、もうひとつのエネルギー源はケトン体だ。ケトン体は脂質を分解して肝臓で合成されるエネルギー源で、人類が700万年の長きにわたり使ってきたエネルギー源なのだが、糖質を主食とした現代人には忘れ去られてしまっているのだ。
脂質なら63日分のエネルギーを備蓄できる
縄文時代前期の遺跡の調査からもわかるように、祖先の時代は何百万年も狩猟採集の生活を営んでおり、食事の内容は肉、魚、木の実などが由来のタンパク質と脂質が中心であった。糖質はほとんど摂っていなかったので、ケトン体を主なエネルギー源にしていたと考えられている。狩猟採集の生活では、獲物を捕獲できない日は食事が食べれないので、エネルギー源を体に備蓄しておく必要があり、備蓄エネルギーとして最適なのが脂質なのである。
体重70kg、体脂肪率20%の男性の場合のエネルギー備蓄量を計算すると、糖質の備蓄量は1800kcalで1日分にも足りない程度しか備蓄できないが、脂質はなんと12万6000kcalで、1日2000kcal消費しても、63日分にもなる。この脂質を肝臓でゆっくりケトン体に合成し、エネルギーを安定供給できれば、数日間食事が摂れなくても生きていくことができるのだ。