「家族がいる」が前提のしくみは見直しを

では、こうしたおひとり様への備えは、本人が努力するしかないのでしょうか。私は、周囲や社会にもできることはあると考えています。企業は、退職後の人生に関する研修などを通して、意識の変化を促せるはずです。高齢単身世帯に声かけをする地域ボランティアなども支えになるでしょう。

ボランティアは収入や時間に余裕がないと難しいものですが、幸いなことに最近は在宅ワーカーも増えています。そうした人たちが、余った時間を無償労働に当ててくれるようになったらどれほど心強いか。その可能性を広げるためにも、「会社にいる時間」の削減には引き続き取り組んでいくべきです。

そして、今後はおひとり様男性が増えてくることを考えると、社会のサポート体制も考え直していかなければなりません。前述のように、男性は家族ではない他人に助けを求めるのが不得手なため、家族がいないと孤立してしまいがちです。この場合に起きる問題は孤独死だけではなく、けがや病気で生活を維持できなくなっているのにサポートが得られないという事態もあり得ます。

入院すればケアマネジャーやヘルパーが紹介されることもありますが、どう支えてもらうかを決める場では、家族の同席や承認を求められることもしばしば。現状のケアの仕組みは「家族がいる」ことが前提で、単身者向けにはなっていないのです。

高齢単身者が増えるということは、身近な家族のいない高齢者が増えるということです。日本は、ここをしっかり支える仕組みをつくっていかなければなりません。介護や福祉の制度を実情に合うよう改善すると同時に、病院、施設、自宅、それぞれの場所で暮らす単身高齢者に対して、よりきめ細かな支えやより多くのスタッフを用意していくべきでしょう。

問題が起きても気づかれないまま深刻化する

女性は年齢を重ねても、単身者同士でシェアハウスに住んだり、施設で交流の輪を広げたりと、新たな人間関係をつくるのが得意な人が多いようです。でも、高齢男性のシェアハウスはあまり聞いたことがありませんし、施設でもプライドが邪魔してか、レクリエーションなどで皆の輪に入らない場合が少なくないと聞きます。

男性の高齢単身者の多くは、自分から人に働きかけることが不得手なのです。そのせいで、問題が起きても周囲に気づかれにくく、どんどん深刻化してしまう。

しかし、本人の意識変化を促す仕組みや、自ら助けを求められない人を放置しない社会的仕組みがあれば、孤独死や生活崩壊のような事態は防げるはずです。今後ますます増えていく高齢単身者のために、企業や行政、そして私たち一人ひとりが「何ができるか」を考えていく必要があると思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。