夫婦間セックスの回数や子どもの有無は関係ない

では、不倫に走らせない抑制因子には何があるのでしょうか? 真っ先に思いつくのは、夫婦間のコミュニケーション問題でしょう。ところが、日本の研究からは、夫婦関係のなかでもセックスの回数、子どもの有無や子どもの人数は、いずれも、不貞行為と関連がないことが示されています。つまり、幼い子どもがいようといまいと、夫婦間での性的コミュニケーションがあろうがなかろうが、不倫をする人はするし、しない人はしないのです。

興味深いデータとしては、男女ともに、日本では学歴が高くなると不貞行為の率が減ることが示されています。実は、アメリカのデータでは学歴が上がると不倫が増えるという結果のほうが多く、これは文化差を反映した結果だと考えられます。

また、性格特性(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向)の程度が夫婦間で似ていると、お互いに誠実になる、ということもわかっています。

さらに、妻への依存心が強い人ほど、不貞行為は働かないことも明らかにされています。男性は年齢が上がるにつれ、妻への依存心が増え(体力的な衰えとは別に)、不倫をする機会が減ることも報告されています。

浮気衝動を抑えられる脳

近年、MRIを用いて、浮気衝動を抑えられる人は、前頭前野領域の活動が高くなっていることがわかりました。前頭前野領域は、欲求を抑えたりするときに働く領域で、この領域の活動が高いほど、浮気衝動を抑えられていたのです。パートナーを裏切らない人は、不貞行為をしたい、という衝動を脳が抑えている結果、誠実でいられるのかもしれません。

また、この衝動抑制のための前頭前野領域の活動は、「疲弊する」ことがわかっており、例えば、仕事やその他のことでこの領域の高い活動を要するようなことをすると、その後、活動が一時的に弱まることも知られています。筋トレをした後に筋肉が疲れてしまうようなイメージでしょうか。自分を抑えるような緊張状態などが続いた後、ふと気の緩みで浮気をしてしまうのは、この前頭前野の活動が弱まっている可能性も考えられます。

研究で明らかになっている不倫にまつわる因子を紹介しましたが、これらはいずれも関連(相関)があったに過ぎず、因果関係ではありません。つまり、不貞行為を働いた後に、上記に挙げたような夫婦間の問題や自分の性格、状況、脳の働きなどを理由・原因として挙げたところで、何の意味も持たない言い訳(戯言)でしかありません。それゆえ、裏切られたほうがこれらの原因を思いうかべ悩む必要も全くないのです。

ただ、これらの結果は、パートナーを選択するときには有用な情報となるかもしれません。

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。