結婚は相手の「家」の戸籍に入ることではない

「結婚したら、女性は男性の家に入るので、男性の姓を名乗る」

このように思っている人も多いと思いますが、これは大きな誤解です。なぜこのような誤解が生じるかといえば、明治31年にできた家制度という法律の名残りがまだ人々の意識に残っているから。しかしこの制度はあまりにも戸主の権限が強く、差別的だったため49年間しか存続せず、73年も前に廃止されています。

いまの法律では「結婚した男女は夫の姓か、もしくは妻の姓のどちらかに統一しなくてはならない」ということを定めているだけなので、本当は夫が妻の姓を名乗ってもまったく問題はありません。しかし実際は女性が改姓するケースが96%を占めます。そしてわずか4%の妻の姓を名乗る男性は、「我の強い妻の尻に敷かれている」とか、「実家の財産目当てなのか」とか「婿養子なのか」といような偏見にさらされてしまいます。

実は、「婿養子」という制度も、さきほどの家制度の廃止とともになくなっています。「サザエさん」のマスオさんは、よく婿養子の代表のように言われますが、実際は磯野ではなくフグ田というマスオさんの氏でサザエと結婚している。妻の両親と同居しているだけなのです。

さらにいえば、よく芸能人などが結婚すると「電撃入籍」などと言いますが、この「入籍」という言葉の使われ方も間違いです。養子縁組などの際、すでにある戸籍のなかに入ることを「入籍」といいますが、お互い初婚であれば新しく2人の戸籍をつくるだけなので、結婚イコール入籍というのは誤りなのです。

あるいはちかごろ妻のことを「嫁」というのが流行っていますが、嫁とは家制度の時代に親から見た息子の妻のことなので、「妻」という意味で使うのは誤用です。

女性の改姓は古い価値観を温存する可能性も

繰り返しますが、結婚することは相手の家に「嫁ぐ」とか相手の家族の「戸籍に入る」というものではありません。にもかかわらず家制度の名残は私たちの意識のなかに実に根深く残っています。その一つが、女性が結婚と同時に望まなくても改姓を迫られる社会的圧力であるように思えてなりません。

それでは、この現状を変えるにはどうすればいいか。その答えの一つが、冒頭で触れた「選択的夫婦別姓」制度の導入です。これは結婚した男女が自分の姓をどうするか、次の三つの選択肢のなかから選べるようにするというもの。すなわち、(1)二人とも夫の姓を名乗る、(2)二人とも妻の姓を名乗る、(3)夫も妻も自分の結婚前の姓を名乗り続ける。

この選択的夫婦別姓制度を実現させようという動きは過去に何度もあったのですが、一部議員の強硬な反対によって実現には至っていません。次回は、その理由について詳しく説明したいと思います。

構成=長山清子 写真=iStock.com

井田 奈穂(いだ・なほ)
「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長

IT業界で働く傍ら、Twitterでつながった仲間と地元議会に選択的夫婦別姓に関する陳情書を提出。地方議会での可決をきっかけに2018年11月、団体を設立。地方議会で可決した329件の意見書のうち、104件は同団体メンバーが働きかけたもの。国会では主要7党で旧姓の通称使用の問題について勉強会を実施。