旧姓の使用を認めている企業が半数以下
結婚している女性には、仕事のときは旧姓を名乗り、プライベートでは戸籍上の姓を名乗る、いわゆる「ダブルネーム」を用いている人も多いと思います。なぜわざわざそんなことをするかといえば、新しい姓になると、「この人、誰?」ということになり、いままで信用、実績、資産を積んできた名前が消えてしまうからにほかなりません。
通称の使用が認められているので改姓による不利益は緩和されているという意見もありますが、政府の調べでは旧姓使用を認める企業は全体の半数以下。人事や経理などバックオフィスの人たちの事務的負担が増えるという理由からです。
立場によってダブルネームの使用が認められないこともあります。読者の方の中には役員や会社を経営している方もいると思いますが、役員登記、特許出願などは戸籍上の姓で行われます。それまで積み上げてきたキャリアが消えてしまうと感じる方も多いでしょう。これは「社会的な死」を意味します。
また親から法人を受け継いだ女性は、自分の姓を失うわけにはいかないので、結婚をあきらめたり事実婚を選択したりしているケースも多いという事実があります。
離婚・再婚……女性だけが煩わしい手続きを強制される
私自身は初婚・再婚で2回改姓しています。井田というのは、実は元夫の姓です。子育てや仕事に影響がないよう、離婚後も婚氏続称(結婚時の姓を継続して名乗る手続き)して、「井田」で20年以上社会生活を続けてきました。戸籍上では再婚して別の姓になっています。
再婚にあたり事実婚ではなく法律婚を選択したのは、いまの夫が腫瘍摘出手術を受けることになったのがきっかけでした。病院から「“奥様”でない方には手術合意書に署名していただけない。ご家族の方を呼んでください」と言われたことから、もし彼に何かあったときのためにも、やはり法律婚をしておくべきだと判断しました。
私はそのときすでに子供が二人いて、彼らは私の離婚、再婚にあたって改姓を望みませんでした。でも保護者名は変わる。すると保険や学校関係、すべての習い事の費用の引き落としまで名義変更が必要だったので、おそらく100以上の手続きをしたと思います。その煩雑さは想像を絶するものでした。
たとえば仕事で海外に行くときは、今の戸籍姓でパスポートを取らざるを得ない。しかしパスポートとクレジットカードが同じ姓でないと、ホテルでカードを出したときに「これは誰のカード?」となる。それならカードの姓を変えようとしたところ、当時、私の使っていたカードは名前だけを変えるということができず、「カード番号も変わります」と言われてしまいました。ということは、そのカードで引き落としていた電気・ガス・水道など光熱費や、銀行口座、証券口座など、生活のすべてを変える必要がある。働きながらこのような煩雑な手続きをするのは大きな負担でした。対して男性は結婚・離婚・再婚をしても、そういう手続きがほぼ必要ない。これは明らかに女性だけに負担を強いる不平等な制度だと言わざるを得ません。