日本、そして世界の人々を熱く魅了したラグビーワールドカップ2019日本大会。ワールドカップを機に、ラグビーはスポーツとしての魅力に加え、チーム力、ダイバーシティなどさまざまな観点から注目を浴びている。多くのチームを勝利に導き、日本ラグビーフットボール協会の副会長に就任した清宮克幸氏と、医療の世界でリーダーシップをとってきた川島眞先生が、ラグビーの魅力と文化、そして今後について語り合った。
左/川島 眞 Dクリニックグループ代表 東京女子医科大学名誉教授
右/清宮克幸 日本ラグビーフットボール協会副会長

ラグビーが体現する文化

【川島】ワールドカップのあと、「ONETEAM」が流行語大賞になるほどよくとりあげられましたけれども、私はその言葉でもまだまだ軽い気がするように感じました。あれだけさまざまな個性の大人がひとつの思いのもと結束し、結果を出すというのはどこから生まれるのでしょうね。

【清宮】自分たちはこれをやったら勝てる、という思考をチームでひとつにし、全員で、自分たちの独自性を極めた絆、連帯感をつくるんです。それが結果に表れるのがラグビーですね。

【川島】正直なところ、今回の決勝トーナメント進出は予想していませんでした。しかしアイルランドにも勝ち、スコットランド戦の最後の5分にはものすごい感動を覚えました。日本人の多くにとって信じられない事が起こっているとの思いだったと思います。

きよみや・かつゆき
早稲田大学では主将として大学選手権優勝に導く。サントリーラグビー部主将を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。5年連続で関東大学対抗戦全勝優勝、大学選手権も3度制覇。2006年サントリーラグビー部へ監督として復帰、初のトップリーグチャンピオンへと導く。2011年にヤマハ発動機ラグビー部監督に就任、4年で日本一に。2019年日本ラグビーフットボール協会副会長に就任。

【清宮】私は4戦全勝というのは普通にあり得ると思っていました。6月、7月のテストマッチのときにすでに“ヤケドするほど”コンディションがいい、早くワールドカップが始まってくれないかというぐらい、状態がいいことを聞いていましたから。今回のジャパンは、前回よりもチームワークも戦術も闘う相手の実力も明快に見えていた。「これを乗り切ったら俺たちは変われるんだ」と全員が思って立ち向かえたのは、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの成功だと思います。

【川島】そして歴代最多の外国出身選手が桜のジャージで激しく戦った姿も印象的で、話題になりましたね。

【清宮】彼らは日本を愛しているし、プライドももっています。そういうところが皆さんに届いたのではないかと思います。ラグビーは外国人が活躍してきた歴史が長いのですが、今はほかのスポーツもボーダーレスになってきていますね。さらに、これはスポーツ界だけでないと思います。標準化していく先端をラグビーは担っているんだと思います。

【川島】なるほど。ほかにもラグビー独特の文化というのが今回注目されましたね。あれだけ肉弾戦をやりながら、試合が終わったとたんまさにノーサイドで、お互いをリスペクトする状況に変わっていく。これもラグビーの文化のひとつでしょうか。こうした感覚はどうやって生まれてきたのですか。

【清宮】それは相手に痛みを与えてしまうスポーツだからだと思います。ここまではやっていいけれど、これ以上は駄目だとか、相手をリスペクトしながらギリギリの線をいく、ということが求められるんです。

【川島】ファンや応援の仕方にもその精神を感じました。

【清宮】そうですね、お互いを尊重する、文化の多様性を認める、それもラグビーの文化です。応援の仕方、楽しみ方も国によってずいぶん違いますし、そうした多様性もいいと思うんです。それでも試合が終わったら握手して抱き合うのだけは、絶対守ってほしいですね。

サイエンスと近いスポーツ

【川島】ラグビーは肉体が主役を張るスポーツのように感じますが、体づくりはどのようなことを心がけていますか。

【清宮】おっしゃるようにラグビーほど体が資本で、そしてこれほど体にダメージを受けるスポーツはないわけです。試合をしてダメージを受けて、回復させて、強くなって、次の試合でまた……という繰り返しです。ですから、予防、治療、栄養管理など、メディカルなことがすごく近い距離にあります。スポーツのなかでサイエンスとの絡みはラグビーが一番じゃないでしょうか。

【川島】そうならざるを得ないでしょうね。各自の健康管理も厳しく、きちんとされているわけですね。

【清宮】ラグビーでは決めたこと、約束したことを守るのが基本ですから、チームスタッフが現状分析のために、たとえば食事をすべて記録して出してくれといったときも、全員きちっとレポートを出します。科学的アプローチもしやすいですね。

ラグビーの未来のために

【川島】ラグビーというものがこんなに日本人の心を打つということにも驚かされました。

【清宮】ラグビーは日本人のメンタリティに絶対合うスポーツだと思います。

かわしま・まこと
Dクリニックグループ代表、医療法人社団ウェルエイジング ・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会総院長。東京大学医学部卒業。東京女子医科大学名誉教授、東京薬科大学客員教授。アトピー性皮膚炎をはじめ、美容、ニキビ、皮膚ウイルス感染症などの研究の第一人者でもある。

【川島】今回最高の日本代表チームだったと思うのですが、4年後にまたこういうチームがつくれるものでしょうか。

【清宮】はい、全然問題なく次々と出てくると思います。

【川島】そのためにもラグビーもサッカー同様、プロリーグが発展してプレイヤー層が厚くなっていかないといけないのではないかと思うのですが。

【清宮】おっしゃるとおり、プロフェッショナルなリーグを日本につくらなければいけないと思っています。投資した金額に近い収入を得られるプロ集団にならないと駄目だ。もう一度日本でワールドカップを開催して、そのときに優勝争いできる国になるという未来を描くと、国内にしっかりしたプロリーグがあることが必要と感じています。そのプロリーグが地域に根差し、普及のアクションや世界との繋がりを担っていく。そういうイメージをもっています。

【川島】子どもたちもラグビーに興味をもち、やってみたい人が増えていると思います。未来のラグビーの発展だけでなく、ラグビーの文化が広がってゆくチャンスが今なのかもしれませんね。

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(撮影:入江啓祐)