心身の強さが求められるのが、ボクシングだ。WBC世界バンタム級チャンピオンの座を5年9カ月守り続けた山中慎介氏。昨年、現役を引退し、新しいステージに。トップアスリートとしての今までや、新たなセカンドキャリアでの健康管理について皮膚科・アンチエイジングの分野で第一人者の川島眞医師と語り合った。
左/川島 眞 Dクリニックグループ代表 東京女子医科大学名誉教授
右/山中慎介 元WBC世界バンタム級王者 アンファー エグゼクティブアドバイザー

世界チャンピオンのモチベーション

【川島】野球少年から辰吉丈一郎のチャンピオンベルトに憧れてボクシングに転向され、ほんとうにWBCバンタム級の世界チャンピオンになられて、5年9カ月もチャンピオンの座につかれていた。ボクサーは心身ともに厳しい自己管理が必要不可欠だと推察しますが、よくぞモチベーションを維持されましたね。

【山中】そうなんです。世界チャンピオンになったらどうかなと思っていましたが、実際には次々に目標が生まれたので、そこに向かって走り続けることができました。若くしてではなく、29歳という成熟した年齢でチャンピオンになったのがかえってよかったのかもしれません。

【川島】こうしてお会いしていると、とても穏やかな雰囲気とお顔で、なんというか、闘争心みなぎるボクサーというイメージでいらっしゃらないですね。

【山中】リングの上では目が違っていたと思いますよ(笑)。ただ、ボクシングでは相手への威嚇というのも必要な場面があるのですが、世界チャンピオンになって結果を出していけば、その必要がなくなっていったという面もあると思います。

年齢や子供の親になったり、引退して1年半になりましたし、環境が変わったせいで表情も変わったかもしれません。

現役引退後も健康と若々しさを

【川島】ボクサーには“減量の苦しみ”がつきものだと思いますが、山中さんはいかがでしたか。

やまなか・しんすけ
1982年、滋賀県出身。2006年プロデビュー、2010年に日本バンタム級王座を獲得。2011年WBC世界バンタム級チャンピオンとなり、5年9カ月の間、世界王座を防衛。日本のボクシング世界王者として歴代2位となる12回連続防衛の記録を打ち立てる。2018年の引退後は、解説者、アスリートタレント、健康やスポーツのアドバイザーとして幅広く活動中。

【山中】最後の試合のときは、約1カ月で61キロから53キロまで8キロ減量しました。

【川島】1カ月で8キロ! 普通であれば筋肉が落ちてしまい、とても運動できる状態ではないと思います。

【山中】ボクシングの減量は特殊だと思います。ただ、やはりある程度キャリアを積んでいくと、それまでの自分の体質や経験を生かして、減量しながらいい練習ができる状態にもっていけるようになりました。

【川島】なるほど。栄養をしっかりと摂りながら、ということですね。普段の生活で体のために「これだけはやった」、あるいは「やらなかった」ということはありますか。

【山中】毎朝必ずロードワークをしていました。週6日、大体8キロぐらい走ります。ジムでの練習と違って誰も見ていないし、自分で甘えたらいくらでも楽することができますが、そこを必ずやる、というのが精神的な強さを鍛えることになったと思います。

【川島】素晴らしいことに現役を引退されても体形はほとんど変わっていらっしゃらないのではないですか。

【山中】いえ、そうでもないんです。試合に向かっての心身のコントロールは慣れているのですが、引退するとどうしても運動量がぐっと減るので、これからの体重管理は課題です。それに、人前に出る仕事が増え、若々しい見た目の維持も大切ですし。ぜひアドバイスをいただければ。

【川島】体重管理は健康のためにも重要ですが、やはりトータルのカロリーを意識することですね。そして筋肉を落とさない運動量は必要です。

大敵はストレスです。ストレスを抱えると人間はストレスを忘れるような行動に走ります。大体多忙ですから、時間がないと食べること、飲むことがストレス解消になりがちです。それで体重が増えるというのが多いパターンです。

美のベースは健康であること

【山中】体重は3キロ増ですが、体形はゆるんできたような気がして。最近はテレビなど人前に出る仕事も多いので、どうしても見た目が気になるようになりました。

かわしま・まこと
Dクリニックグループ代表、医療法人社団ウェルエイジング ・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会総院長。 東京大学医学部卒業。東京女子医科大学名誉教授、東京薬科大学客員教授。アトピー性皮膚炎をはじめ、美容、ニキビ、皮膚ウイルス感染症などの研究の第一人者でもある。

【川島】その意識は男性でも、年齢を問わず必要だと思います。相手に与える印象を考えると体形維持だけでなく、髪型、肌、服装も重要です。男性の美容外来では中高年の方が多いのですが、気にされていたイボやホクロ、シミなどを取ると明るくなり、前向きになられますね。

【山中】たしかに、ホクロなど付いているときは気付くのですが、取れたものは気付かない。けれど、なにか印象が変わっている、ということはよくありますね。

川島先生が考える「美と健康」とはどういうものですか?

【川島】美容に一生懸命手をかけても、そのベースになる健康がないと、人から美しいという印象はもたれないと思います。やはり健康がまずありき、ですね。

山中さんはこれからどういうことを伝えていかれたいですか。

【山中】食と運動と睡眠の三つの要素がいかに大切であるかということを、それを実感してきたアスリートとして伝えていきたいと思っています。

【川島】運動といえば、これからはリラックスして楽しむという姿勢を取り入れてみてはどうですか。

【山中】はい、そう思って、ゴルフを始めました! まだ面白いと感じる域にいけていないのですが、もう必死でうまくなりたいと思っています。練習に対する必死さはボクシング以来ですね。

【川島】必死、ですか。ゴルフは真剣になるとこれもストレスになりそうですから(笑)、まずは広々した場所でいい空気を吸って体を動かすことを満喫しましょう。

健康と見た目のマネジメントを考える

第1回 責任世代があらためて持つべき健康とアンチエイジングの意識(羽鳥慎一)

第2回 今求められている人間を癒やす建築(隈研吾)

第3回 アスリートの経験が教えてくれる体重管理と見た目の重要さ(山中慎介)

第4回 ラグビーの文化が日本を変える(清宮克幸)

(撮影:大沢尚芳)