新国立競技場をはじめ、木をふんだんに取り入れた建築で、国際的にも著名な建築家の隈研吾氏。環境と調和する建築で人々の心に潤いを届けてきた。皮膚科・アンチエイジングの分野で第一人者の川島眞先生と木造建築のもつ力や建設中の新国立競技場について、そして海外出張の多い日々の体調管理などを語り合った。
左/川島 眞 医療法人社団ウェルエイジング総院長 東京女子医科大学名誉教授
右/隈 研吾 建築家

後世への“贈り物”になる建築とは

【川島】隈先生と知り合ってずいぶん経ちますが、私が先生の作品で何より感銘を受けたのは、根津美術館はもちろんですが、万里の長城にある「グレート・バンブー・ウォール(竹屋)」でした。

【隈】川島先生は、あのビレッジに行かれたのですか!?

【川島】ええ。何人もの建築家が設計した建物があるなかで、隈先生の作品は印象的でありながら、違和感なく環境と調和していて、ほっとさせられます。建築というのは絵や彫刻と違い、空間にデザインをして建物を造りますが、仕事の依頼を受けると、サッとイメージが湧くものなのですか。

くま・けんご
建築家。東京大学教授。東京大学工学部建築学科大学院修了後、米国コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所を設立。1997年、「水/ガラス」でアメリカ建築家協会ベネディクタス賞を受賞したほか、多数の賞を受賞。世界各地で活動中。

【隈】絵の場合は、ひとつのフレームの中でコントロールできますが、建築はスケール的に大きく、耐震性や居心地などあらゆることを計算し、それぞれの専門家によって進めていくものです。そのなかで建築家は、映画監督のようなまとめ役だと思っています。たぶん、建築家の仕事は全体の1%程度です。

【川島】ところで、隈先生はジュエリーのデザインもなさっていますね。実は、うちの嫁がピアスを買い、着けたときの感触がほかのものとは違い、「これは3次元だ、とても新鮮だ」と感じたそうです。

【隈】自分の建築をモチーフにするので、3次元になるのかもしれないですね。

【川島】建物というのは何十年、何百年と残る。つまり、時間という単位が加わり、4次元の世界ですよね。設計の際には、後世の評価も念頭に置かれるのですか。

【隈】時代を読むようにはしています。後の世代に贈り物として残せるものができたらいいなという思いはありますね。

【川島】設計に対する基本的なコンセプトというものはありますか。

【隈】今の日本では、威圧感のある建築ではなく、人が癒やされる建築が求められているように感じています。

【川島】新国立競技場のコンセプトも、時代背景を考えられているのでしょうか。

【隈】1964年の東京オリンピック開催で丹下健三先生が設計した代々木競技場の体育館は、吊り橋のような構造が取り入れられました。当時、あれほど大胆に設計したものは世界になかったので、「日本の技術はすごい」と世界中が驚きました。新国立競技場は、「日本人は木を大事にしている」、「日本人は優しい」といった感性の部分で世界の評価を受けられればと思っています。

【川島】新国立競技場の建物の周りも全部デザインされたのですか?

【隈】はい、人工デッキがあって、雨水を使ったせせらぎもつくります。

【川島】そういった自然に優しい建築を目指すようになったきっかけは? 

【隈】バブル崩壊後の10年間、私は東京で仕事がなくなり、地方の小さな公共建築などで、地元の職人さんと仕事をしていました。そのときに、「建築の分野で、日本は他国に負けないのではないか」と感じたのですね。特に木造建築は、日本が圧倒的技術力を持っていますから。

【川島】今後も日本人の優しさや繊細さをコンセプトになさるのでしょうか。

【隈】そこに居て癒やされると感じる建築が増えると、超高層ビルがバンバン建っているアジアの都市とは違う、日本独自の味が出せるのではないかと。そうなれば、今や高層ビルが林立する都市の時代じゃないと感じた人たちが、日本にもっと来てくれるのではないかと思っています。

現場で歩くのが健康の秘訣

【川島】ところで、これまでに何カ国で仕事をされたのですか。

【隈】たぶん20数カ国だと思います。今はロシアのイルクーツクやモロッコのカサブランカなどでやっています。

【川島】1年のうちどのくらい海外ですか。

【隈】半分ぐらいですね。

かわしま・まこと
医療法人社団ウェルエイジング・医療法人翠奏会・医療法人リアルエイジ静哉会総院長。東京女子医科大学名誉教授、東京薬科大学客員教授。アトピー性皮膚炎をはじめ、美容、ニキビ、皮膚ウイルス感染症などの研究の第一人者でもある。

【川島】やはり、現場を大事にしていらっしゃるのですね。

【隈】ええ。例えば木や壁の色にしても、図面で想像しているのと違うことがあって、やはり、自分の目で材料を確かめないといけない。小さなサンプルで確認するというのも信じられなくて、実際に現場で取り付けられているところを確認するというやり方をしてきました。

【川島】とはいえ、日本と海外を行き来なさり、時差は気になりませんか?

【隈】1カ所に長く滞在しないようにして、ヨーロッパでも4~5泊で帰ってきます。体が現地の時間になじむ前に戻ってくる感じです。川島先生はどのようになさっているのですか?

【川島】私は搭乗前に何か食べ、少しアルコールも入れて、機内は寝る場所と決めています。そうすると、現地に着いてから体が楽ですね。ところで、健康面ではほかに気をつけていらっしゃることはありますか?

【隈】食生活では野菜をよく摂るようにしていますが、何が健康に良いかという情報を判断するのは難しいですね。運動はたまに泳ぐぐらいですが、歩く距離はすごくあると思います。まだエレベーターも設置されていない現場を歩きますから(笑)。

【川島】新国立競技場の建設現場にも、よく足を運ばれるのですか。

【隈】ええ、このオフィスから近いので。

【川島】たしかに、すぐ近くですね。木をふんだんに取り入れた新しい国立競技場の誕生を心待ちにしています。

健康と見た目のマネジメントを考える

第1回 責任世代があらためて持つべき健康とアンチエイジングの意識(羽鳥慎一)

第2回 今求められている人間を癒やす建築(隈研吾)

第3回 アスリートの経験が教えてくれる体重管理と見た目の重要さ(山中慎介)

第4回 ラグビーの文化が日本を変える(清宮克幸)

(撮影:大沢尚芳)