年金繰下げで損しないための3つの注意点

1.額面であって、「手取り」ではない点

将来、実際に受け取れる年金額は、額面通りではありません。老齢年金は課税の対象であり、社会保険料も納める必要があります。高齢期には自治体ごとの国民健康保険と介護保険料を納める方が多いと思いますが、その場合自治体ごとに保険料は異なりますので、影響は人によってまちまちです。ただし、年金額が増えれば保険料も上がります。つまり、かりに70歳まで繰下げを行っても、手取りベースで考えると、単純に1.42倍にはなりません。とはいえ、現行制度のままであれば、影響額はまだ小さいかもしれません。

ですが、現状社会保険料は少子高齢化などの事情により、右肩上がり傾向にあります。税制も、年金額が多い人には課税が厳しくなる傾向があります。

現時点で65歳か少し手前の方が繰下げするかどうかで悩まれるのは分かりますが、10年も20年も先に65歳を控えている方は、手取り額に影響を及ぼす税や社会保険の動向も気にしておきたいところです。

2.「加給年金」が支給されなくなる

プレジデントウーマン読者の皆さんには、当てはまることはないかもしれませんが、公的年金制度には、いわゆる“家族手当”に相当するものがあります。「加給年金」と呼ばれるものです。

一家の大黒柱がリタイアすると、給与収入から年金になることで世帯収入が減ってしまいます。そこで、大黒柱に養われている配偶者等がいる場合、一定の要件(※) を満たすと大黒柱の年金に上乗せして「加給年金」が支給されます(加給年金は厚生年金加入者が対象です)。

ところが繰下げを行うと、加給年金は受け取ることができなくなります。

加給年金を受け取れる期間は、多くのケースで夫婦の年齢差によるので、支給停止の影響額は世帯ごとにまちまちですが、かりに最大5年間、加給年金を受け取ることができないとすれば、現状200万円近い額になるので、影響は小さくありません。

※「加給年金」支給のおもな要件(夫が大黒柱とした場合)
・夫の厚生年金被保険者期間が20年以上あること
・妻の厚生年金被保険者期間が20年未満であること

3.そもそもの年金額が減額される可能性がある

最後に、「65歳時点での年金額」そのものが、将来的に減額される可能性がある点も挙げておきたいと思います。

公的年金に関しては、冒頭で触れたように5年ごとに財政検証が行われます。いわば公的年金の“健康診断”のようなものです。今年の結果をみると、将来の老齢年金が実質的に目減りしていくことが読み取れます。