影響力と問題解決力のない日本のPTA

ここでは、積極的に働きかけ、影響を与えるための方法が、最終的にはデモや学校ストライキに至るまで、細かく示されている。

地方自治体住民イニシアチブは、住民や組織が自治体に発案、議案を提出する権利である。また、カンテル(kantelu)は、市民が、行政機関の手続きや決定に不満や苦情を申し立て、再考を求める制度である。こうした制度は公式なもので、の方法や手順を知ることは容易である。

日本のPTAでは、何か不満があっても、それをどうすればいいのかがよくわからない。どこに責任があるのか、あいまいにされているし、異議申し立てをする方法も教わっていない。その結果、「仕方ないんだ」「こういうものなんだ」「みんな、我慢してるんだ」「日本ってこうなんだ」といったあきらめの心境に落ちていく。問題について話し合う習慣、問題を訴える方法、思考回路がないので、そういう方向に向かわざるをえない。

岩竹美加子『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』(新潮新書)

さらに、「私はしているのに、あなたがしないのはずるい」「私はしたんだから、あなたがしないのは許せない」というように、目の前にいる親に敵意をむき出しにする。PTAを現在のような形に維持させているのは行政の力なのだが、それは完全に透明化していて、怒りが行政には向かわない仕組みになっている。

「親達の同盟」は、上記の学校ストライキに及ぶまでの行動を起こす時の戦略も助言していて、次のことを考慮に入れ、交渉することを勧めている。

「自分の主張を根拠づけて議論することが大切。法の規定(基本教育法、子どもの権利条約、地方自治体法など)、政府のプログラム、地方自治体のプログラム、教育計画、研究成果、学校の保健アンケート、地方自治体の比較の統計、社会的価値、伝統、子どもの利益、専門家の意見、自分の専門的知識、観察、一般的意見、有名人の意見」

ここにも、知識を広く伝えて、市民を啓蒙しようとする啓蒙主義的態度が感じられる。

「子どものため」とは何か

このインタビューで、「子どものため」という言葉を何度か聞いた。それは、日本のPTAでもよく聞く言葉である。でも、同じ子どものためと言っても、2つの国の保護者組織の活動とその背景にある考えは、見事にかけ離れている。逆方向を向いているとも言えるだろう。フィンランドでは、学校生活のウェルビーングを高めようとして、子どものために活動し、行政に影響を及ぼそうとする。日本では子どものためと我慢して、したくもない活動に参加させられる。親同士が「ずるい」などといがみ合い、入会しなければ子どもに不利益があると脅される。

保護者組織のあり方は、学校、またその国の教育のあり方と関連していると思う。日本の保護者組織も学校も教育も、今のようなものでいいのだろうか。日本のPTAの問題を解いていくには、比較や相対化が一つの方法になると思う。外国の保護者組織については、情報がとても少ない。ここで書いたことが、PTAを考える時の参考になれば幸いである。

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岩竹 美加子(いわたけ・みかこ)
ヘルシンキ大学非常勤教授

1955年、東京都生まれ。早稲田大学客員准教授、ヘルシンキ大学教授を経て2019年6月現在、同大学非常勤教授(Dosentti)。ペンシルベニア大学大学院民俗学部博士課程修了。著書に『PTAという国家装置』、編訳書に『民俗学の政治性』など。