顔見知りに一声かけて。一週間で何人と話ができるか?

ここ数年日本発着のクルーズ船が急激に増加し、「1泊1万円以下」「アミューズメント満載」といった広告が目につくようになった。筆者は15年以上前から取材や個人旅行で海外・国内クルーズに何度も乗船してきたが、船旅好きからすると、低価格帯や施設の充実度ばかりが注目されることに少し違和感があった。船の旅の良さはハード面よりもソフト面のほうが大きいと感じているだからだ。インターネットでもSNSでも情報が取り入れられるこの時代、どこで何をするかを事前に決めておけば、現地では間違いのない最短ルートで「見る」「食べる」「過ごす」といった目的は達成できる。だからこそ、誰とも同じではない「偶然の出会いと会話」が最高の思い出や、今後の自分に影響を与えるきっかけになる時代ではないだろうか。

とはいえ、普通の海外旅行では出会いがなかなかないという人もいるだろう。そんなとき、「多くの出会いがあり、拙い英語でも会話を楽しめる」のがクルーズだ。なぜなら、「一般的に旅程が1週間以上と長く、ゆったりとした時間が流れている」「さまざまな国籍の人が乗船していて、基本的に船内の公用語は英語」だから。

総トン数4万トンと小型船ながら、最高級のぜいたくなクルーズを提供する「シルバー・ミューズ」。

クルーズ船には「カジュアル/スタンダード」「プレミアム」「ラグジュアリー」とカテゴリーがあり、船の大きさは高級になるほど小さく、乗客一人あたりのスタッフが多くなるため手厚い接客が受けられる。一方で乗客数の多い大きな船ほど、サービスは一過性になるものの、船内の施設が増える。ラグジュアリークラスでは乗客定員500人以上に対し、クルー400人以上くらい。これがカジュアルクラスの最大客船ともなれば、乗客5000人以上、クルー2000人以上が乗船している。海外旅行で1つのホテルに滞在していても、これだけの人に出会うことはまずない。同じメンバーが1週間同じ空間を共にするということは、客船という名の小さな町が移動しているようなもの。必然的に顔見知りが増えるため、会話の機会が圧倒的に増えるのだ。

英語を話すモチベーションが湧いてくる

例えば、客室担当のクルー。船の旅の場合、乗客はいつでも自分の客室に戻って来れる。そのためクルーのなかには、客との会話の中でさりげなくその日の予定を把握し、客室にいない間に掃除に入るといったプロフェッショナルもいる。乗客同士の交流も盛んだ。船内のレストランやバー、プール、フィットネスなど、1週間も一緒に移動していると「類は友を呼ぶ」という言葉どおり、必ず顔を合わせる乗客がいる。そうした乗客と「次の寄港地でどこに行くか」「船内施設でどこがよかった」といったたわいない話をしながら仲良くなっていったりする。旅先で旅行者に声をかけてくる人には用心したほうがいいことも多いが、船内で出会う人たちはクルーズ代金を払って乗船してきているので、だます目的で声をかけてくる人は極めて少ないように思う。クルーもさまざまな国籍の乗客に慣れていて人当たりの良い人ばかりだ。

そのうえ、夜遅くにバーで一人飲みしていても安全、レディファーストの文化がある、荷物は部屋に置きっぱなしでOK、夜はドレスアップできる、船内にフィットネスやアミューズメント、カフェ、エステなどがあるので、アクティブ派にもリラックス派にも対応している。パートナーとだけでなく、気の置けない女性同士や、シングル客室があるなら一人で乗船してもさみしくはないと思う。

ちなみに、語学堪能でなくてもたいていわかってもらえる。筆者の英語力はかなり低いほうだが、欧米人客と話をすると、「私たちは日本語が全く話せないのに、あなたはこれだけ英語が話せるんだからすごいわよ」などと褒められる。海外の人は褒め上手なので、自己肯定感も話す意欲もぐーんと上がるのだ。