ロンドンとケルンを往復。家族との時間も大切に

2017年に現在のマネージング・ディレクターという役職に就き、タッシェン社の事業全般の共同経営者として、父の事業を手伝い、海外展開などをリードしています。6年前まではイタリアのミラノに暮らしていましたが、現在は娘と夫の住むロンドンと、会社のあるドイツ・ケルンを行き来する日々です。

タッシェン マネージング・ディレクター マレーネ・タッシェンさん

子どもとできるだけ長く一緒にいてやりたいという思いから、ロンドンにいるときは夕方5、6時には帰宅して一緒にご飯を食べ、時間を過ごします。それでも、家でもメールや電話で仕事を続けることもあるし、出張でしばらく離れることもあります。子育ても家事も仕事も、全部自分で頑張りたかったのですが、現実には難しかった。

そして、人の手を借りることが自分の助けにもなっていることに気づいたのです。私がいないときは夫が面倒を見てくれますし、必要なときは子どもが寝てからシッターにお願いして仕事に出るようにしました。

多くのことをやりすぎず、できないときはきちんと“NO”と言うこと。そしてちゃんと栄養と休息を取り、得るものと失うものを見極めること。大事にすべきことがだんだん見えてきて、だいぶ楽になりました。今はモバイルやテクノロジーを活用すれば離れていても仕事ができます。そして信頼できる人たちが周囲にいてくれれば、任せられるのです。

家族、仕事、自分の時間……バランスを取ることは簡単ではありません。パーフェクトにはなれないけれど、挑戦し続けることは忘れたくないですね。

幼い頃からアートに触れ価値観の多様性を学ぶ

タッシェン社は1980年に父が設立し、美術や建築、デザイン書などを中心に出版してきました。それまでアートとして扱われてこなかったフェティシズムやアニメ、セクシュアルなものなどもきちんと取り上げ、幅広いアートを世に出したことでも評価を受けてきました。

家には常にさまざまなアート作品や絵画があり、父にはどんなものでも同じだけのリスペクトを持つことを小さい頃から徹底的に教えられました。アートの扱い方も厳しく指導されました。アートだけでなく、人や価値観などどんな異質なものや変わったものでも、伝統的なものに対するのと同じくらいの尊敬の念を持って受け入れられるようになったのは、父のおかげです。

ロンドンの大学で経営学だけでなく社会心理学を学んだのは、そうしたアートとの関わり方に影響されたのかもしれません。