表参道出店のハードルは全く感じなかった
ハリジェンヌ社長 光本朱美(みつもと・あけみ)さん
西洋のエステティックと東洋の鍼灸(しんきゅう)を融合した美容鍼(ばり)のサロン・ハリジェンヌの光本朱美さんは、幼い頃に一生の仕事を見つけた。
「父が岡山県でエステサロンを経営していて、毎月わが家で誕生会を開催し、従業員の女性たちを祝っていました。そこで誕生月の人が将来の目標を発表するのですが、そのキラキラした笑顔が『すてきだなあ』と子どもながらに思っていました。私も働く女性たちをバックアップし、お客さまをきれいにできるお店を持ちたいと決意しました」
光本さんは、サロン開業に向けて全くブレなかった。中高一貫校でゴルフ部に入ったのも、取引先と交流する際など、ビジネス面に役立つと思ったから。フランスのエステティック学校に入り、卒業後は日本の鍼灸大学に入学した。鍼灸師として兵庫県・芦屋の美容鍼のサロンに勤め、28歳で念願の自分の店を東京・表参道にオープン。全く知らない土地、しかも地価が高い表参道で開業することに不安はなかったのか。
「いえ、全然。本当はシンガポールで開店したいと思っていたので、むしろハードルが下がったくらい。ビザや資金面などの諸事情で起業できなかったので、表参道でのスタートは、私にとっては妥協です(笑)」
光本さんが、シンガポールにこだわったのには理由があった。日本人ではあまり感じなかったエステや鍼の効果の差が、人種によって如実に出ることをフランスの学校で学んだ。グローバル展開を目指している光本さんは、アジア圏で最も人種のルツボであるシンガポールならば、さまざまな肌タイプのサンプルが取れると思っていたのだ。
「東京のことを知らない“怖いもの知らず”なところも、結果的によかったのかもしれません。私にとってシンガポールに比べたら、表参道と岡山は同じレベルでした(笑)」
通常、手技によるエステだけでは肌のリフトアップ効果は出にくい。硬くなった表情筋をほぐさないとどんどん皮膚がたるむが、指よりも肌の深部に届く“刺さない鍼”を考案して、エステと融合させた。
この独自技術や、有名人を起用した鍼のショー、メディアを積極的に活用したPR活動により、ハリジェンヌは成長した。表参道の店はフロアを拡大し、芦屋店も開業、多くの海外のサロンと技術提携するなど、業績は順調そうに見える。
「そんなに簡単ではないです。なんとなく軌道に乗ったと感じてきたのは開業後3年ぐらい。その間せっかく育ってきたスタッフが辞めるなど、精神的にキツイ時期もありました」