大学在学中、のちの小泉純一郎内閣で大臣を歴任された竹中平蔵先生の研究会で学びました。当時も今も、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでは必修科目の比重が低く、自分の興味関心にあわせた履修ができます。多くの女性と同じように私も理数系科目に苦手意識があり、入学当初は経済学を避けて履修していました。ところが、竹中先生のとてもユニークな経済原論の授業に感銘を受け、大学4年間で経済学や経済政策について学び、自分のものにしたいと考えるようになったのです。

慶應義塾大学総合政策学部准教授 中室牧子さん

大学卒業後は総合職として日本銀行に入行。私は常々、現実に起こっていることを説明するツールのひとつとして経済学を用いる竹中先生のあり方は、先生のキャリアがアカデミア一辺倒でなかったことと関係があるのではないかと感じていました。私も研究だけでなく、現実の政策形成にも強い関心があったので、新卒時は研究者になるとはあまり考えていなかったのです。日銀ではマクロ経済や国際金融市場の調査を担当していましたが、コロンビア大学公共政策大学院を卒業したあと、世界銀行にコンサルタントとして関わりました。そこで教育の政策評価の仕事に携わったことがきっかけとなり、現在は経済学の理論や方法を用いて「教育」という対象を分析する「教育経済学」を専門としています。

経済学はとても面白い研究分野です。多くの人は、経済学というと財政、金融、貿易などの経済的な事象を研究する学問だと思うかもしれませんが、それは正しくありません。私たちの身近な生活の中で起こることは、ほとんど何でも経済学の研究対象です。たとえば、スーパーの割引クーポン、詐欺、節水や節電、ダイエット、貯蓄、禁煙、献血。これらにはすべて経済学の有名な論文があります。特に近年は、ノーベル賞を受賞したリチャード・セイラー教授の研究でも有名になった「行動経済学」に注目が集まっています。心理学の分野の知見を取り入れた行動経済学は、人や企業が必ずしも合理的には行動しないことに着目した新しい分野です。女性も関心があるようなテーマを取り扱っていますし、直感的に理解できるようにわかりやすく書かれた一般書も多いので、ぜひ行動経済学から経済学の勉強をはじめてほしいです。