お茶くみとメイクは、女性のたしなみ?

仕事では、電力自由化に伴う省電力のシステムなどのソフトウエア開発を担当してきた。三菱電機が請け負った日本卸電力取引所(JEPX)のシステムでは、基幹デザインの大部分を任された。

(上)午前中はデスクワークが中心。メールや電話対応などをスピーディーにこなしていく。(下)ランチは本社ビルの地下街などで購入。野菜たっぷりのバゲットサンドがお気に入り。

電力業界を取り巻く制度の変革の最前線で、さまざまなシステムを設計する仕事は、非常にやりがいのあるものだった。夜遅くまで残業が続く時期もあったが、同僚の日本人エンジニアとともに、一丸となってプロジェクトを進める日々は楽しかったと語る。

「書道教室での体験もあって、昔から同僚とコミュニケーションを取るときは、メールではなく、直接会って話すようにしています。日本語の文字だけでのコミュニケーションに不安があったのも確かですが、表情を確かめながら話すほうが、お互いに理解を深め合えると思うからです」

ただ、仕事で充実感を得られる一方で、日本特有の文化になじめず苦労してきたのも事実だ。

「満員電車は今でもつらいですが、最初は食事が大変でした。私はパンが大好きなのですが、社内で注文する食事はごはんのメニューが中心で……。一時は10kgも痩せてしまいました」

それからもう1つ、大きな戸惑いを覚えたのは、男性と女性を明確に区別する社内の雰囲気だった。

「会社には女性技術者は少ないのですが、事務の仕事をする女性社員はたくさんいて、彼女たちから『お茶くみをして』と言われて、断ったことがありました。先輩の女性に『マルタもメイクくらいしないと』と、化粧品を渡されたこともありました。私は普段メイクをしないので、結局、使いませんでしたが(笑)」

その頃の社内には、まだこうした雰囲気が色濃くあったのである。当時の戸惑いが胸に甦るのだろう、いくつかのエピソードを指折り数えながら、彼女は思わず苦笑いを浮かべた。

「イタリアではレディーファーストが当たり前でしたから、エレベーターに乗る際、男性社員のために女性がドアを開けて待っているのも驚きました。仕事では男女が対等に働いているのに、どうして扱いがこんなに違うんだろうと。『なぜこれを私に頼むの?』『みんながしているからって、関係ないでしょ』と、上司だった人たちとは、ずいぶんけんかもしました」