「介護」専門家4人の本音トーク

【鬼塚】一家みんなが働いているなら、お金で解決、プロに任せるのが1番。祖母の年金と、足りない分はみんなで出し合う。昔の私はそれが言えなくて、育児と末期がんの主人の父をみとる親族全員の世話や家事を、1人でやっていましたけど、今は公的な介護保険の制度が整っています。日中はデイサービスに任せる、夜もみんなが大変だったらヘルパーさんにお願いする。ひどくなったら介護施設に入れればいい。

(左)税理士 林 良子さん(右)協会代表理事・FP 鬼塚眞子さん

山岸先生、彼女1人が犠牲になって仕事を辞めたって、相続の際に寄与分も認められないでしょう?

【山岸】寄与分とは、相続人の中で被相続人へ特別寄与した者への相続分の上乗せです。例えば夫の祖父母や両親が亡くなったとき、財産を維持するのに寄与した分を少し上乗せしてもらえるというもの。嫁は相続人ではないので、寄与分はありません。相続人であっても介護はして当たり前のことなので、ほぼ認められないですね。とはいえ認められることもあるので、病院への送迎に使ったタクシー代とか、持ち出し分の領収書は念のため全部取っておいたほうがいいです。

それから介護にかかるお金は、介護されている人のお金から出せるようにしておくこと。相続財産も減りますからね。必要なときに自分の財布から個々で出し合ってると、記憶違いでトラブルが起きたりという問題も起きやすいんです。

【鬼塚】交通費とかスーパーとか、1回1000円とか2000円くらいの持ち出しが、ちりも積もって1番もめるんですよね。だからそれぞれ申し送りできるノートに記載しておくのも大事だと思います。

【林】節税という観点では、親族に介護をしてもらう代わりにお金を渡しても、経費とは認められません。でも、親や祖父母が自分たちと生計を一にしていた場合、医療費を支払ったら医療費控除を受けられます。ほかにも親や祖父母を介護する場合、扶養控除を受けられる場合がありますし、介護をされる人が障害者に該当すれば、障害者控除も受けられるかもしれません。該当されるなら確定申告をされるといいですね。

鬼塚先生、最近流行っている認知症保険はどう思われますか?

【鬼塚】言葉に振り回されている人が多い気がしますね。民間の介護保険は所定の介護状態と認定されれば認知症も対象なのに、認知症保険は対象を認知症に絞っています。“老いはまず足から”といわれるのに、「認知症になったら怖い」という不安や、保険料の安いものも発売されていることから、とりあえず入ってしまう。でも、保険以外にも対策はあるんですよ。

例えば、福祉用具に「認知症徘徊(はいかい)感知器」ってあるんです。8月発売の最新式のものは、玄関のドアノブに手をかけたら、親族10カ所に注意喚起の動画が行くとか、家族の声が流れたりして。介護保険が使えるものなら、格安で借りられます。地域独自のボランティアさんがいるならお願いするなど、なにかあったときの保険の手前のことを、自分だけが犠牲にならずに、みんなに頼ってやったほうがいいですよ。

▼公的介護保険とは?

40歳以上が全員加入して、要介護認定を受けたときに、訪問介護や福祉用具貸し出しといった自治体指定のサービスが、自己負担1~2割で受けられる保険です。

●どうやって払っているの?
会社員は会社と折半で給与・賞与から天引き、国民健康保険の人は所得に応じて保険料に上乗せされます。

●いつ受けられるの?

65歳以上の人は理由に関係なく、要介護認定されればサービスを受けられ、40~64歳の人は老化に関連する特定の病気で要介護状態になったときに受けられます。要支援1から要介護5まで7段階あり、要介護の状態や自治体により、利用できるサービスが変わります。


【鬼塚】自治体指定のサービスの限度額が決まっていますし、それ以外のサービスは全額自己負担になりますから、介護者の年金や貯蓄を使いながら、足りない分をみなで公平に補いましょう。

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会
弁護士、税理士、社会保険労務士、FP、金融関係者、医師、不動産関係者、介護福祉関係者、不用品回収業者、印刷業者など、それぞれに活躍する実務経験豊富な各分野の専門家で構成。契約企業に出向き、介護・事業承継・相続問題のほか、夫婦・家族の問題などに悩む社員の個別相談にワンストップ・ワンテーブルで対応。セミナー研修などを行っている。
鬼塚眞子
一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表理事・FP。大手雑誌社勤務後、出産のために退職・専業主婦に。その後大手生命保険会社の営業職として社会復帰。業界紙記者を経て、保険ジャーナリスト、FPとして独立。認知症の両親の遠距離介護を機に、同協会を設立した。
丸尾はるな
弁護士。弁護士登録7年目で独立し、「丸尾総合法律事務所」開設。弁護士歴約10年でありながら、個人の一般民事事件、家事事件、企業の法律相談、訴訟案件など、幅広い相談に対応し、時代にあわせたサポートを行う。
山岸潤子
弁護士。仕事と子育てを両立する、弁護士歴約20年のベテラン。非常勤裁判官経験もあり、現在は東京家庭裁判所調停委員も務める。子どもの権利委員会、少年法委員会、男女共同参画推進プロジェクトチームほか、多くの弁護士会の活動にも携わる。
林 良子
税理士。一般企業の経理などをしながら税理士試験に合格。現在は内山・渡邉税理士法人の社員税理士であり、租税教育の講師も行う。得意分野は資産税(相続税・譲渡所得税)を中心とした税務コンサルティング、法人税、所得税の節税対策。

編集・構成=干川美奈子 撮影=干川 修