資産運用に成功している人とうまくいかない人では、ものの考え方や視点にどのような違いがあるのか。長く富裕層の資産形成をサポートしてきた独立系ファイナンシャルアドバイザーの中桐啓貴氏に聞いた。

投資とギャンブルの一番の違いは何か

──多くの方の資産運用をサポートする中で感じる、最近の傾向などはありますか。

【中桐】相談に来られる方の多くは30~50代。人生100年時代を前提に「何か対策を──」という方が多いですね。ただ皆さん、自身の家計や資産状況を細かく把握しているかというと、必ずしもそうではありません。特に共働きのご家庭などは、財布が二つあるため案外アバウトな場合も見受けられる。私たちのような第三者に一度客観的に見てほしいというニーズは高まっているように思います。

──ビジネスパーソン全体で見ると、金融商品や不動産商品に投資している人はまだ多くありません。

【中桐】投資をある種のギャンブルと考えている人がまだいるように感じます。ギャンブルというのは、皆の賭け金のうち、胴元が必ず何割かを得て、残りを取り合う仕組み。個々の立場では、勝つ人も負ける人もいますが、参加者のトータルの収益は必ずマイナスになります。一方の投資は、資産価値が増大することで、参加者全員がプラスの収益を得ることもあるわけです。

仮に1974年末に世界株式に100万円投資していたら、40年後の2014年末に2720万円になったというデータがあります。ご存じのとおり、この間世界は戦争や不況を何度も経験していますが、ならして見れば世界株式は年率8.6%で成長したわけです。

──資産運用においては、長期的な視点の重要性が指摘されますね。

【中桐】そのとおりです。例えば、短期的な株価の変動に投資する。これはギャンブルに近いと言っていいかもしれません。これまで資産運用のお手伝いをしてきて、成功する人というのは例えば保有資産の価格が大きく下がったときに耐える力を持っています。もちろん、売り時、買い時を見定めることは大切ですが、我慢できない人は失敗しているケースが多いというのが私自身の実感です。

資産運用に成功している人は資産の価格が変動しても耐える力を持っています
中桐啓貴(なかぎり・ひろき)
ガイア株式会社 代表取締役社長
山一證券を経て、メリルリンチ日本証券へ。ファイナンシャルコンサルタントとして資産残高70億円の成績を残し、最年少でシニア・ファイナンシャル・コンサルタントに昇進。留学のため退社し、ブランダイズ経営大学院にて、MBA(経営修士号)取得。帰国後、2006年に独立系FP会社であるガイア株式会社を設立。金融機関に属さない独立系ファイナンシャルアドバイザーとして活動する。

パートナーとなる企業との関係をどう考えるか

──資産運用においては、パートナーとなる事業者選びも大切です。何かアドバイスはありますか。

【中桐】金融機関や不動産会社もビジネスをしている。当たり前のことではありますが、このことは念頭に置いておくべきでしょう。ただ儲かる話を持ってきてもらうわけにはいきませんし、そうした事業者は信用できません。お互いWIN-WINとなる関係をつくることが大事で、パートナーというのであればどちらが上でも下でもなく、役割を分担するという発想が求められます。そうした関係性の中では、当然事業者側からリスクについても丁寧な説明があってしかるべきでしょう。

いずれにしても、どちらかだけが得をする関係というのは長く続きません。事業者を決める際は、10年、20年にわたって付き合える相手であるかどうか考えてみるといいでしょう。

──現在は資産を管理、運用する手法も多様化していますね。

【中桐】私のお客様でも、不動産へ投資している人は少なくありません。不動産投資の一つの利点は、自身の信用力を生かして融資を受け、レバレッジを利かせた投資ができることです。当初から長期的な視点を持って始める人が多く、ビジネスパーソンが引退後までを見据えて行う投資の選択肢にもなっています。

資産の管理という面では、各金融機関が顧客のニーズごとにサービスラインアップを充実させ、きめ細かな対応をするようになっています。単に預金、投資、保険ということではなく、例えば信託銀行などは不動産や相続などに関しても相談できる。人生100年時代となれば、その中ではいろいろなことが起こります。やはり信頼できる相談相手がいるか、いないかは大きな違いでしょう。

あなたなら乳牛一頭にいくら投資をするか

──具体的に資産運用をスタートするにあたっては、どのようなことに留意すべきでしょうか。

【中桐】私がいつもお伝えしているのは、「価値より安い価格で買う」ということです。これも基本的なことですが、案外見過ごされています。例えば、あなたが乳牛を一頭買うことを想像してみてください。いくらで買いますか。なかなか見当がつかないはずです。

では、乳牛から取れるミルクの卸値が1年間でおよそどれくらいの金額になるか、そのほか飼育費や平均的な寿命がわかればどうでしょう。計算によって、おおよその乳牛の価値がわかります。そうすれば、価格の妥当性もある程度判断できます。

不動産投資だとイメージしやすいですが、株式などの金融商品も考え方は同じ。その資産が生み出す価値を見極めて投資対象とすべきかどうかを判断しなければいけません。単にほかと比べて価格が安い、高いという情報だけで売買の判断をするのは、長期的な資産運用においてリスクが大きいといえます。よく知られているとおり、「乳牛はこれからも値上がりしそうだ」と皆が単に価格だけに焦点を当てて売買を始めると、バブルになってしまうわけです。

──経済、社会の先行きが不透明感を増す中、読者に資産運用についてメッセージをお願いします。

【中桐】先行きの不透明感については、今も昔も変わらないともいえます。先ほど、40年前に世界株式に投資をしていたら──というお話をしましたが、当時、その後の激動の世界経済を予測できた人はいなかったでしょう。

ただここで一つ押さえておくべきは、少し大きな視点の話になりますが、今世界の多くの人が資本主義社会で生きているということです。資本主義とは、いわば再生産によって資本の価値を増大させていくためのシステム。そうである以上、一つ一つの企業を見れば確かに栄枯盛衰はありますが、世界経済全体は成長していくと考えるのが順当でしょう。だからこそ、100万円だった世界株式が40年後に27倍以上にもなったのです。

繰り返しにはなりますが、やはり資産運用において欠かせないのは長期的な視点と広い視野。ぜひ自分なりの方針を定め、腰を据えた取り組みを実践してほしいと思います。