ルールは文化に勝てない
商慣習を変える改革が必要
【大友】この先5年、10年先の日本経済を俯瞰したとき、不動産業界に限っていえば、人口減少に加えて物件の供給過剰などの問題があり、投資家には不動産への投資は先行き大丈夫なのかと不安視する声もありますが、先生はどうお考えですか。
【伊藤】人口減少や社会保障費の増加などのマイナス要因は多いですが、悲観的なことばかりではありません。ITによる効率化やロボットの進化など、経済や産業に革命をもたらす兆しも生まれています。また、不動産でいえば、投資戦略上の重要性はこれからも変わりません。格差問題で世界的に著名になったトマ・ピケティが実施した調査では、この100年の欧米の資産の中で不動産のシェアは着実に上昇しています。投資ポートフォリオに不動産を組み入れておくことは、長期の資産運用ではやはり重要だと思います。
【大友】そのためには、やはり投資家自身が不動産取引にもっと関われる環境が必要ではないかと感じています。日本の不動産業界は独特の商慣習が残っていて、取引をするうえで力を持っているのは、間にいる不動産業者。投資家は直接アクセスできないマーケットになっています。その結果、多くの投資家は自身の保有する不動産の売買交渉や、賃貸経営を不動産会社に丸投げしてしまっている。ここが現在の課題ではないかと思います。
【伊藤】いわゆる「問屋」が力を持っているということですね。現場ではどんな問題が起きているのですか。
【大友】不動産賃貸でいえば、契約を仲介した不動産会社が受け取れる報酬は宅建業法上で「家賃1カ月分+税」と定められているのですが、実際には「広告料(AD)」という名目の手数料が上乗せされているケースが少なくありません。成約したら、オーナーが家賃1~6カ月分のADを負担するというのはごく当たり前。売買でも、売り主と買い主に同じ不動産業者がついて、両方から手数料を得る取引もあります。
【伊藤】かつては金融でも流通でも、売買を仕切っている中間事業者が「チャネルリーダー」として業界をリードしていました。彼らに合わせないと、売るほうも買うほうも商売が難しい。ところが情報発信が盛んになり、モノやサービスが標準化してくると、売買の当事者が力を持つように構造が変化しています。例えば証券業界では、まさに不動産業界と同じ問題が指摘されていました。しかしさまざまな改革によって、投資環境は変わりました。不動産の世界でも、変化は時間の問題。これから、現状を打破していこうという革命が起きてくるのではないでしょうか。
【大友】まさに、その変化を起こしていくのが私たちの目標です。先ほど宅建業法の話をしましたが、ただ法律を変えるだけでは不動産取引の現場は変わらないと感じています。ルールと文化がケンカして、ルールが勝つことはありえない。不動産の商慣習は、長い歴史の中で積み上げられてきたものです。それを変えるなら、根底にある文化そのものを変えていく必要がある。きっかけとして最初に手がけたのが、アパートなどの収益不動産オーナーと入居希望者を直接結ぶWEBサービス「ウチコミ!」です。
不動産投資家に新しい選択肢を提示する
【伊藤】具体的には、どのようなサービスを展開しているのですか。
【大友】「ウチコミ!」は物件を保有する投資家が無料で物件を登録・公開し、入居者の募集・交渉・成約まで行えるポータルサイトです。入居希望者と投資家が直接やり取りして、内見や契約などの業務を不動産会社が担当します。そこで成約できれば、仲介手数料以外のコストはかけずに集客できます。また、オーナーは借り主である入居者の声を直接聞くことができる。物件の質を高める工夫にも貢献します。
【伊藤】これからは不動産も小売も、あらゆる産業が「量から質」への転換を図っていく時代です。そうしたダイレクトマーケティングも重要になっていくでしょう。
【大友】それに当事者が直接やりとりすることで、築年数や構造などだけではわからない、まちや土地、建物のストーリーといった非定型の価値まできちんと発信できます。これも、「ウチコミ!」の強みだと思います。加えて昨年から、収益物件の個人間直接売買ができるプラットフォーム「ウチコミ!売買REVO」もリリースしています。前例のない取り組みですので、サービスを始めた直後は本当にここに登録してくれる投資家がいるのか、売買は成約するのか自分たちでも半信半疑でしたが、着実に成約件数が増えています。
【伊藤】既存サービスと共存する形で、投資家同士が自由に取引できる場が育っていけば、市場はより活発になっていくように思います。株式なども含めて、資産運用を総合的にマネジメントするプロフェッショナルやサービスも増えてくるかもしれない。さまざまな方向へ、変化が波及する可能性があります。
【大友】これまで、不動産市場で投資家には限られた選択肢しかありませんでした。既存のやり方に加えて、「ウチコミ!」のような新しい選択肢を投資家に提示することで、日本の不動産市場の発展に貢献できればと思っています。