「もっと気楽に」と言われ肩の荷が下りた

助手時代に、応用物理学会の男女共同参画をテーマにした委員会に参加したとき、委員会のリーダーを務めていた応用物理学者の小舘香椎子さんが、高井さんにこんな言葉をかけたのだ。

「すべて男性と同じように働く必要はない。もっと気楽に考えて、生活も楽しめばいい」

それを聞いて、肩の荷が下りたと彼女は話す。

「それまでの私は、男性以上に頑張らないと認めてもらえないと、がむしゃらになっていました。当時は『女性は2番手』と考える先生が多かったからです。でも、研究者として業績を出し、認められている小舘先生の言葉で、ようやく気持ちを切り替えられました」

とはいえ、女性の働き方は、男性の働き方と社会の価値観に大きく左右されるとも感じている。

「昔は結婚や出産で離職するリスクが高い女性採用は嫌がられる傾向にありましたが、近年はダイバーシティの価値が受け入れられ、女性が活躍できる社会がつくられつつあると言えるでしょう。ただ、仕事と家庭の両立はパートナー次第。今の女子学生にアドバイスできるとしたら、生活スタイルを理解してくれるパートナーを探すことですね」

今は東大で研究を行う一方で、教養学部の1、2年生への講義や後進の育成にも力を入れている。「私が大学の教員という職業を選んだ理由に、学生への研究教育があります。研究に注力して優れた成果を出すことに100パーセントの価値を置くのであれば、企業や研究所で働くのがいいと思います。でも、私は研究を通した教育にも価値を見いだしています。学生を研究者として育てることが楽しいんです。30代後半から40代前半の女性研究者は、これから自分の研究室を持とうという時期。彼女たちには、女性でも気負いなく教員を続けられるということを、私自身が見せていきたいです」

撮影=市来朋久