仕事、家庭生活、お金、親子関係……、さまざまなお悩みに、110冊以上の著作を誇る作家の本田健さんと、PRESIDENT WOMAN Onlineの連載「WOMAN千夜一夜物語」でおなじみのコラムニスト河崎環さんが回答する人生相談、今回は「夫婦の会話」に関するご相談です。

【今回のご相談】
夫が“プロ野球好き”すぎて困っています。夫から私に話しかけてくる内容の9割5分がプロ野球に関することです。私から夫に話しかければ、他の話題でも普通に答えてはくれますが、それがプロ野球の話だととてもうれしそうです。私もプロ野球は嫌いではありませんが、夫からそれ以外の話題で話しかけられたいです。夫婦の会話がないよりはマシかとは思いますが……。どうしたらよいのでしょうか。
自分がそこまで興味のない話をずっとされるのはつらいもの。しかし、それが大好きな人による大好きなことに関する話となると、なかなか言い出せないものです。(イラスト=伊野孝行)

相手の文化を知ろうとすることが相互理解の第一歩

【河崎環さんの回答】

いやー、分かります。ウチの夫もプロ野球好きで、ナントカリーグが始まるとテレビがずっと野球中継やスポーツニュースになったり、ごひいきのチームが優勝などしようものなら雑誌やスポーツ新聞を集めたり。あとはバスケとか、アメフトとか。私の実家はそれらの競技を見る習慣がなかったうえに、私自身全く知識が(興味も)なく、結婚当初は「なにこの球技大好き文化……」と引きました。

逆に、私の実家はマラソンとフィギュアスケート文化だったのです。駅伝や4大マラソン、フィギュア国際大会の中継番組もつけっぱなしで、あの選手のコンディションは今年はどうだ、最近あの大学はいい感じだなんだと、話題に上ります。もちろん、夫からしたら「なんだそれ、スポーツじゃないだろ?」(←いろいろ敵に回す発言)てなもんです。

しかも当の私はサブカル大好きときており、文芸や音楽や漫画や映画演劇や思想関係の話ならずーっと酒の肴にして飲んでいられるという体たらく。なのに、ウチの夫はサブカル界隈なんて視界の外、そして結婚当初はまったくの下戸。そんな、お互いの文化の合流点が一向に見当たらない夫婦でもどうにか20年やってますから、安心してください。

同じ趣味で知り合って、それで結婚してずっと仲良く……なんてのは、少女漫画的というかおとぎ話的というか、一見“こうして二人は永遠に幸せに暮らしましたとさ”に見えるものですが、人は成長によって変わり、興味も変遷します。それまでぴったり合っていたものが徐々に離れていったり、逆に何万光年も離れているとしか見えなかったものが奇跡の合致を見せたり、そしてまたゆっくりと離れ、再び出会ったり。人間ってそういうものです。夫婦というのは同じミッションに共に向かって行ける生涯の戦友であって、100%同じ興味を共有している必要なんてないんですよ。「イヤっ、私は自分を100%理解してくれる人と結婚したいのっ!」ってなスイーツな人は、自分と結婚してりゃいいじゃないですか。

頭の中がプロ野球だらけの旦那さん、少年のようで本当に可愛いですね。プロ野球でいっぱいの間はむしろ、それ一つで機嫌の良し悪しも計れるというもの。「うわー、幸せそうだなぁ」と保護者のような気分で見守り、たまには一緒に野球観戦デートとしゃれ込んだり、ちょっとくらい野球を予習して質問の一つも投げかけたりしてあげてください。自分が相手の文化を理解してあげようとしている限り、相手もやがて自分の文化に興味を示してくれるのです。野球くらいでハッピーになってくれるのなら、簡単なものですよ。

女性回答者プロフィール:河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。