“デキる男”であることよりも大事なこと

相談の日、時間通りに彼女は現れた。ウェーブがかったロングの黒髪に、紺色のパンツスーツがばっちり決まっている。テレビドラマで見るようなイメージ通りの“バリキャリ”といった風貌だ。

冒頭、いきなりパンチを食らった。彼女が言ったことは衝撃的だった。「大西さん、誤解してほしくないのではっきり言います。私は、男性の年収も経歴もどうでもいいんです。求めるのは、私を1人の普通の女性として扱ってくれる人、これだけです」

なんだ、これ? いつものキャリア女性の展開と違う。「ふ、普通って……? どういうことですか」「なぜ、普通って言っているのかをまず説明しなければいけませんね」

いわゆる“デキる男”と呼ばれる高年収の男性を紹介されても、彼らの方から知識量や教養を張り合ってくるため疲れる。超高収入を得られると言われる学歴と資格を持つ彼女が「すごいですねー」と言っても、「なんだよ、嫌な感じ」となってしまう。明らかに学歴も経歴も女性の方が上であることにより、男性をみじめな気持ちにさせてしまうらしい。

彼女の言い分はこういうことだった。「だからね、いっそのこと学歴が一切物を言わない、私とは全然違う世界で生きている人がいいんです」

私は少し意地悪な気持ちで言った。「年収が300万円台の職人さんがいますが」「えっ、とても興味があります!」「はっ!? ホントですか?」

彼は、特殊技能を持った建築系の工芸職人だった。中国からの輸入品や工業製品に押されて、どんどん年収が下がっていると言っていた。「お金じゃないんですよね。僕じゃないとできないものを作りたいんです。そこに燃えるんです。とはいえ、ホント甲斐性のない男ですよね」自分のことをそう評しながらも、仕事に誇りを持つ人特有のイキイキとした目が印象的な男性だった。

そんな話をしたところ、「大西さん、すごい! その人と絶対会ってみたい!」ということで、彼女は即入会。彼と会うことになった。