シーリグ教授の型破りで愉快な授業は、彼女の生きざまそのものといえる。東海岸ペンシルベニア州出身の教授はヴァージニア大学の修士に進んだが、1学期だけ過ごして、西海岸へ旅に出る。自分が何をやりたいのかを探すためだ。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校図書館で神経科学の文献を9カ月間読みあさって過ごした後、スタンフォード大学の教授たちにリサーチの仕事を求めて手紙を書き、医療器具を調べる仕事を得て、そこから専門の神経科学の研究室でリサーチアシスタントになった。

同大の医学部に進み、神経科学の博士号を得たが、バイオ分野で起業したいと思った彼女は、大手コンサルティング会社「ブーズ・アレン・ハミルトン」の面接で脳の研究と経営コンサルタントの仕事の類似点を説明し、ビジネスを知る足掛かりとなるコンサルタントとなった。

「自分が誰か、何をやりたいかを知り、何でも経験を積むことが大切です」

女性が結婚して子育てする道を選んでも、子育てから起こるさまざまな問題に前向きに対処していけば、先が開けていくという。教授も子どもが小さいうちは、子ども向けの本を書いたり、ウェブサイトを自ら立ち上げたりした。

「自分に何ができるのか。今日やったことが、明日のあなたをつくるのです。リミットはない。やってみなさい」

ティナ・シーリグ
スタンフォード大学医学部博士号を取得後、現在は同大学経営科学・工学部の実践教授。STVPのエグゼクティブ・ディレクターとして、約16年間起業家としての技術を学生たちに伝授。著述や講演も行っており、長男・ジョシュに向けて書かれた『20歳のときに知っておきたかったこと』(阪急コミュニケーションズ)は 、日本でも数十万部のベストセラーに。2011年にはNHK「スタンフォード白熱教室」にも登場。新書『Insight Out』が今年5月に出版されたばかり。

撮影=Ayako Jacobsson