コンプレックスを消すのは無理

どうすればいいのでしょうか。僕が教えてほしいぐらいですけれど、何とか考えてみます。まず「わかっちゃいるけれどやめられない」のが人間です。コンプレックスを完全に消すことなど不可能だと思います。今さらおっとりした上流階級のフリをするのはやめましょう。すぐに無理が出て、毒舌を吐きまくりたくなります。

ただし、コンプレックスが湧き上がるのをときどき感じながらも、自分の活動の邪魔はさせない程度に抑え込むことならば可能です。職場の人間に毒づくのは家族相手だけに留めて、外では朗らかに泰然と働き遊べばいい。「あの人は情緒が安定していて付き合いやすい人だ。また一緒に行動したい」という印象を持ってもらえるでしょう。その印象がいかに重要なものか。現代の企業社会で生きる読者のみなさんには言うまでもありませんよね。

コンプレックスの暴走を抑えるにはコツというか前提が必要です。それは、自分の生活にある程度満足していること。「満足していないからコンプレックスがあるんだよ!」という反論もあるかと思いますが、果たしてそうでしょうか。

子どもを産むのは来世でいいじゃないか

人間の欲望には果てがないので、「うらやましい」という感情はすぐに伝染してしまいます。例えば、億単位の資産を持つ同世代と知り合いになったとします。あくせく働いている身としては軽いコンプレックスを覚えるでしょう。その知り合いが「ネオヒルズ族」みたいな傲慢な振る舞いをしていたらぬるい殺意を抱くかもしれません。

でも、心身が健康で、それなりに公私を楽しく過ごせていて、借金もない状態であれば、いつまでもひがみ意識にとらわれることはありません。自他を冷静に見比べることもできるでしょう。資産家にもワーキングマザーにもそれぞれの不安や不自由さはあり、それもひっくるめて今すぐ自分はなり代わりたいのか。なり代わるとしても来世ぐらいでいいのではないか。

この人生もどうせ残り40年ぐらいなのだから、いま自分が持っているものを活かし尽くし愛し抜かなくちゃもったいない。足るを知り、現世を楽しもう。で、生まれ変わったらあり得ないぐらい美しくて幸せなワーキングマザーになろう。こんな気持ちでいられたら、コンプレックスまみれの「イタい先輩」にはならないと思います。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/