「今夜から一緒に寝ろ」と言われ…

宇野千代『生きて行く私』(KADOKAWA)
宇野千代『生きて行く私』(KADOKAWA)

しかし、鉄砲小路の家には私はほんの十日ほどしかいなかった。伯母はしんから嬉しそうにして、「ここは雄一の寝とる部屋じゃが、今夜からお前は、この部屋で雄一と一緒にお寝るんでよ」と言って、二つ列ならべて敷いてある寝床を指さしたが、私にはそれが、雄一の妻になったことだとは思えないのであった。その夜、二人は二つの寝床に列んで寝たのであったが、あのいつかの夕方、二人一緒に家までの道を歩いて来たときと同じように、一言の話もしないで眠ったのであった。まだ十三歳の花嫁であった私は、それでも自分のおかれた場所がおかしいのだとは思わないのであった。

雄一は翌日の晩もその翌日の晩も、着物を着替えて、毎晩のようにどこかへ出掛けて行き、なかなか帰っては来なかった。

宇野 千代(うの・ちよ)
小説家・編集者・デザイナー

1897(明治30)年、山口県岩国市生まれ。岩国高等女学校卒業。1921(大正10)年、『時事新報』の懸賞小説で「脱脂の顔」が1等に入選。小説を発表しはじめ、1930(昭和5)年、『罌粟はなぜ紅い』を中央公論社より刊行。1935(昭和10)年に『色ざんげ』を刊行し、1936(昭和11)年、雑誌『スタイル』を創刊。1957(昭和32)年、60歳のときに発表した『おはん』で第10回野間文芸賞を受賞。1983(昭和58)年、86歳で『生きて行く私』を刊行。100万部を超えるベストセラーになる。1996(平成8)年、急性肺炎のため死去。享年98。