「二度目の敗戦」状態にある日本
いまや、かつて中露のやり方を批判していた側までが、同じ方向へ動きはじめている。ヨーロッパは規制でアメリカ企業を縛り、独自の決済網を模索する。グローバルサウスの国々も、自前のインフラを持とうとしている。
しかし、日本ではこの問題がまだ十分に議論されていない。国産クラウドや国産AI、経済安全保障という個別の議論は始まっている。だが、決済、通信、クラウドといった国家を動かす基盤を横断して、「最終的に誰が止める権限を持っているのか」という主権の問題として捉える視点は乏しい。
筆者は、この状態を日本の「二度目の敗戦」と考えている。
一度目の敗戦には、焼け跡があった。何を失ったのかが、誰の目にも見えた。二度目は違う。何も燃えていない。今日もコンビニでカードは通り、スマホは動き、通販の荷物は届く。便利で、快適だ。だから敗けたことさえ見えにくい。
では、なぜ日本の首相は、自国出身のICC所長が制裁対象になっても「大変残念に思っております」としか言えなかったのか。
答えは、首相の資質より深いところにある。アメリカが発動した制裁の効果を自力で打ち消すだけの金融・デジタルインフラを、この国は持っていない。なにより、日本にはなにを目指し、なにを守るかの共通する物語もない。だから「残念」と言うことしかできない。
8月19日の「大変残念」という一言は、その敗戦がすでに起きていることを、何より雄弁に物語っている。
1975年岡山県生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。