なぜ被害者へ二次加害するのか

被害者であるにのみや氏も一度、生活保護を受けるところまで追い込まれたが、すべて自力でしなくてはならなかった。「困窮しているのは、性被害に遭って働けなくなったためだ」とは、とても役所の窓口で言い出せなかったという。

性暴力被害者は自分のせいでもないのに、このような立場に置かれ、人生に計り知れない影響を受ける。それなのに救済は少ししか進んでいない。「被害を口にしても、『同意があったのでは』とか『そんなの被害じゃない』とか、二次加害がひどい。被害を被害として受け止めない社会がある。そうした世間の目がある上、自分にも落ち度があったのではないかと悩み、自分が受け入れられない。けがれてしまったのではないかという意識も振り払えない。そうすると、こんなに苦しんでいるのに、助けがほしいというのも言い出せなくなっていく」と、にのみや氏は話す。

斉藤医師
筆者撮影
性犯罪加害者の更生プログラムについて話す斉藤氏(精神保健福祉士・社会福祉士)

あいまいな対応は加害者も救わない

性犯罪は再犯が多いため、性犯罪者には更生プログラムの受講を義務づけるべきだとも、にのみや氏は考えている。実は榎本クリニックのように、性加害者の更生のための治療をする施設は全国でも少ない。こうした受け皿の仕組みが全国に広がっていけば、性加害をするリスクの早期発見・早期介入・早期治療につながっていく、と斉藤氏は話す。

性暴力被害者の救済を図り、加害者の更生を助けることが、性暴力に寛大な社会を変えることにつながる。佐野選手の不起訴の中身がわからないので、このように日本で実践されている性加害者更生の取り組みが、どれだけ今回の件に資するものであるかは不明だ。しかし、不透明な状況を放置したまま日本サッカー協会が取った措置は、一見、佐野選手に寛大なように見えるが、本当に佐野選手の今後を助けているのだろうか。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト

コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。