オープンイノベーションの成功の鍵とは。多数のスタートアップと新規事業を創出してきたSOMPOホールディングスの楢﨑浩一氏と、FoF方式で海外VCに分散投資を行うAT PARTNERSの土佐林淳氏が、日本企業の新規事業開発における課題とその解決策を語り合った。

日本企業の課題は「現状維持バイアス」の強さ

【土佐林】日本では長年、オープンイノベーションの必要性が叫ばれてきましたが、欧米などに比べて成功事例が少ないのはなぜでしょうか。

楢﨑浩一
SOMPOホールディングス株式会社
執行役専務 事業開発最高責任者
Palantir Technologies Japan株式会社 代表取締役
楢﨑浩一 Koichi Narasaki
1981年、三菱商事入社。90年代後半から米シリコンバレーに駐在し、現地で5社のスタートアップ経営に携わるなど通算12年在住。2016年SOMPOホールディングスグループCDO就任。現在はPalantir Technologies Japan代表取締役、SOMPO Light Vortex取締役会議長としてデジタル新事業開発を推進。

【楢﨑】私は長くシリコンバレーでスタートアップの事業開発や経営に携わり、2016年にSOMPOホールディングスのグループCDO執行役員に就任、現在は事業開発最高責任者を務めています。その中で感じた日本企業の課題は「現状維持バイアス」の強さです。

多くの経営トップは現状に対する危機感を持っていますが、全社的には「今やっていることを否定したくない、既存事業をディスラプト(破壊)するのは怖い」という空気がまん延しています。本音ではイノベーションなんて起きてほしくないと思っている。そのため新規事業開発に取り組んでも、少し風向きが悪くなるとすぐに中断してしまうのです。しかし、新規事業は1、2年くらいで結果が出るものではありません。

【土佐林】そんな中でも、楢﨑さんは多くの成果を上げています。

【楢﨑】これまでに、複数の新規事業を立ち上げ、軌道に乗せてきました。19年には、米国のパランティア・テクノロジーズと合弁会社を設立。パランティアは今でこそAIやビッグデータ解析で有名ですが、当時は「そんな会社と組んで何をするんだ?」という反応でした。しかし、トップが後押ししてくれたことで今があります。

投資は目的ではなく手段。「戦略」が命運を分ける

土佐林 淳
AT PARTNERS株式会社
Co-Founder & General Partner
土佐林 淳 Jun Tosabayashi
米国および日本でスタートアップの立ち上げやエグジット経験、CVC設立から一連のファンド実務やクロスボーダーM&Aおよびベンチャー投資など、スタートアップと投資家双方での豊富な経験を有し、2018年にAT PARTNERSを創業。

【土佐林】SOMPOが成功しているのは、経営層のコミットメントに加え、投資を“目的”ではなく“手段”に位置づけていることも大きい。多くの日本企業はここが逆転しており「出資すること」がゴールになりがちです。しかし、「どんな新規事業を生みたいのか」という戦略がおろそかなままでは、本質的なイノベーションは起こりません。

その点、楢﨑さんは「何を実現したいか」を明確に描いた上で協業相手を探し、必要があれば出資するスタンスなので、無駄な投資が少ないですね。

【楢﨑】スタートアップが協業パートナーに求めているのは、自分たちの製品や技術を買って売り上げをもたらしてくれることと、事業成長を加速させる戦略投資の二つです。決して出資“だけ”ではありません。

【土佐林】日本企業は、出資と協業をセットで考えることが多いですが、この二つは分けて考えるべきでしょう。

有望なスタートアップは既にApple、Google、Amazonといった現在の世界経済をけん引する企業に創業初期から投資してきた実績を有するトップティアVCから十分な資金を得ており、投資家を「選ぶ」立場にあります。競争が激しく簡単に出資できないだけでなく、出資したからといって自動的に協業先と見なしてくれるわけでもありません。こうした厳しい状況が、日本ではほとんど知られていないと思います。

魚でも鵜でもなく「鵜飼い」に投資する

【楢﨑】私はよく、スタートアップを「魚」に例えています。日本の大企業が海外のどの魚が将来世界を変える力を持っているかを見極めるのは至難の業です。捕ったら腐っているかもしれないし、大きく育たないかもしれない。自分で直接魚を捕るのは大きなリスクがあり、いい魚に巡り合う確率は非常に低いのです。

では、魚を捕ってくる「」、つまりVCはどうか。鵜は、自分が捕ったものは、多少質が悪くても「いい魚です」と言う可能性がある。または、捕り方に癖があって、私たちの好物ではない魚ばかり捕ってくるかもしれません。

そこで、多数の鵜を通じて魚の情報が集まってくる「鵜飼い」、すなわち複数のVCに投資するFoF(ファンド・オブ・ファンズ)に注目しました。魚(スタートアップ)や鵜(VC)よりも、優れた鵜飼い(FoF)に投資する方が、幅広く精度の高い情報が得られ、オープンイノベーションにつながりやすい。私たちがAT PARTNERSに出資したのは、財務的なリターン以上に、戦略的リターンがずっと大きいからです。

【図表】オープンイノベーションを変える「鵜飼い」の投資戦略

【土佐林】われわれの知る限りオープンイノベーションを推進する日本の事業会社向けにこのFoFモデルを提供したのは、国内でAT PARTNERSが初めてです。これまで20のトップティアVCおよび37のファンドへ投資を行い、総ファンドサイズは500億円超に達します。本来、海外のトップティアVCに投資するのは簡単ではないのですが、私や共同創業者の秋元信行はベンチャー投資の経験が長く、彼らとの強固なネットワークのおかげで実現がかないました。これらの大手VCに分散投資することで、財務リターンを担保しつつ、彼らが持つ世界中のスタートアップ情報を網羅的に得ることができます。

【楢﨑】私が特に重宝しているのが、AT PARTNERSが独自に開発したスタートアップのデータベース「ATDB」です。「こんな事業をやりたい」と思ったときに、条件に合うスタートアップが調べられ、強みや弱み、競合、特許、資金調達状況などの情報が得られます。

【土佐林】私たちが投資するVCが持つ累計6000社のポートフォリオにとどまらず、世界中のスタートアップ400万社以上の中から戦略面でベストなスタートアップを探し出せる仕組みです。中には、日本市場に関心を持つスタートアップも存在しています。楢﨑さんはATDBを「使い倒して」いますね。

【楢﨑】日本企業は、良くも悪くも横並び意識が強いので、この動きは徐々に広がるでしょう。例えば、私がSOMPOに入った当時は、保険業界でCDOの肩書を持つ人はいませんでしたが、今では珍しくありません。

「オープンイノベーションはこうあるべき」と念仏を唱えるだけでは意味がなく、行動するしかない。ただ、いきなりどこかのスタートアップに投資するのはリスクが高過ぎます。AT PARTNERSのような優れた「鵜飼い」とパートナーを組むことは、高い視座と解像度で世界を見てオープンイノベーションを実現するための、強い武器になるはずです。

【土佐林】そもそも私たちがAT PARTNERSを立ち上げたのは、停滞する日本のオープンイノベーションの現状に一石を投じたいという思いがあったから。SOMPOのような成功事例を皮切りに、さらなる変革を起こしていきます。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券、ファンドその他の金融商品への投資の勧誘または売買の推奨を目的とするものではありません。また、記載された内容について、その正確性・完全性を保証するものではなく、将来の投資成果を示唆するものではありません。