「子どもがいる人ほど幸せ」という逆転が発生
2020年以降の海外研究では、「子どもがいる人ほど幸福度が高い」という、これまでとは逆の結果が報告されるようになってきたのです。
一見すると、これは喜ばしい変化に見えるでしょう。しかし、この結果をそのまま受け取るのは危険です。
なぜなら、その背後には「ある残酷な選別」が起きている可能性があるからです。
今回はこの点を詳しく見ていきたいと思います。
子どもとメンタルヘルスの関係を分析した興味深い研究があります。ノルウェー公衆衛生研究所のマリア・リスター・アンデルセン研究員らによる研究です(*2)。
この研究の最大の特徴は、その桁違いの規模にあります。2006年から2019年にかけて、31歳から80歳までの約220万人を対象に、毎年のデータを追跡しています。約220万人という、国民の半数規模のデータです。
この巨大データは何を明らかにしたのでしょうか。
子どもがいる男女ほどメンタルヘルスが良好
分析結果は明確でした。
子どもがいる人ほど、メンタルヘルスが良好だったのです。
具体的には、母親は精神疾患のオッズが33%低く、父親では40%低いという結果が示されました。対象には、うつ病、不安障害、睡眠障害などが含まれています。
さらに注目すべきは、この傾向が特定の属性に限られない点です。
結婚しているかどうか、学歴の高低にかかわらず、子どもがいる人のほうが精神疾患の割合は低くなっていました。反対に、特にリスクが高かったのは「未婚で子どもがいない男性」や「低学歴で子どもがいない男性」です。
そしてもう一つ重要なのは、この差が時間とともに拡大している点です。2006年から2019年にかけて、親と非親のメンタルヘルス格差は広がっていました。
つまり、「親であること」と「メンタルの安定」の結びつきは、むしろ強まっているのです。
ここまでを見ると、「やはり子どもは人を幸せにする」と考えたくなります。実際、アンデルセン研究員らは親になることで①生活のリズムが安定(早寝早起き等)、②社会的つながりの拡大(ママ友・パパ友の増加)、③意味・目的意識の向上といったメリットがあり、これらがメンタルヘルスの安定につながると指摘しています。子どもの存在はメンタルヘルスの安定に一役買っているわけです。
しかし、アンデルセン研究員らはもう一つの別な要因の影響も指摘しています。