日本は被害者のケアが遅れている
ところが日本ではどうだろうか。現在各都道府県に設置されている「ワンストップ支援センター」に行っても、PTSDに特化した治療が受けられるとは限らない。警察が行っている無料カウンセリングも同様で、地域による差が大きい。長江氏らが2020年愛知県で行ったアンケート調査だと、PTSDの専門治療を提供している精神科医療施設は、回答を寄せた109件のうちわずか7件しかなかった。一般精神医療の枠内での対応が難しく、人手や時間、経験やトレーニングの機会が足りないことなどが、提供できない理由だった。
もともとPTSDに特化した治療をしてくれる医療施設が少ないところへ、新患を受け付ける余裕がない施設も多く、見つけるのは簡単ではない。しかも保険がきかず、わずかな補助が出るのを除けば実費で、1回1万数千円から、場所によっては1回数万円かかり、経済的な負担も大きい。このように、PTSDから回復するための治療を受けられるかどうかは、まさに自己責任に任されており、慢性期に移行しないための行政的な配慮が欠けたまま、被害者は放置されている。
支援者「治療法が知られていない」
また現在のようにSNSによる個人発信が盛んな時代でも、他の病気に比べ、治療法自体が知られにくい問題がある。「治療を受けて効果があっても、それを話すと性暴力を受けたとカミングアウトをすることになる。そのため隠す人が多く、口コミで広がっていかない」と長江氏は話す。
長江氏らが携わっている心理支援の場では、PTSDに苦しむ被害者を支える家族の2割(主に母親)が、二次受傷の形でPTSDを発症していた。こうした家族に対しても相談やセラピーを無料で行いたいと、長江氏らがクラウドファンディングをした際、「寄付したいが、たとえ匿名でも、娘が性暴行に遭ったことがわかるといけないのでできない」という母親がいたという。
日本の現状はこのようなものだ。NHKが2022年に行った性暴力実態調査アンケートによると、性暴力被害者のPTSD発症率は5割を超える。それなのにセラピーを受けるのは自費。医療施設を探すのも大変。どこでどんな治療が受けられるかという情報を、経験者同士で交換するのも難しい。さらに、治療を受けられる機会を増やそうという試みに対してすら、自分が特定されたら怖い、と資金援助に戸惑う人たちがいる。