被害者に対応する人なら知るべき

医療や心理支援の現場、教育機関、行政の相談窓口、警察、救急隊など、性暴力のほかDVや虐待も含めた被害者対応をする機会のある人たち向けに、「トラウマ・インフォームドケア」の考えを身につけて対応できるようにする「フォレンジック支援者養成プログラム」も存在している。性犯罪を扱う弁護士など法曹関係者や、性暴力被害者を社会的にサポートする社会活動家や市民運動家も、こうしたプログラムを受講して専門知識を得た上で、被害者支援などをすることを考えてもいいのではないだろうか。そして、それを個人対応に任せるのではなく、組織や団体、職場単位で学び、「トラウマ・インフォームドケア」の理解を、面として社会の中で広げていくことが大切だ。

伊藤氏の映画を巡っては、かつて伊藤氏を支援する立場だった代理人弁護士や社会運動家、また伊藤氏の裁判を報道してきたジャーナリストが伊藤氏を批判する、ということが起きている。もし当初から伊藤氏が専門的なケアとサポートを受けられていたら、また「トラウマ・インフォームドケア」の考えが司法や社会支援、報道の現場などでもっと浸透していたら、違った展開になっていたかもしれない。PTSDに苦しむ性暴力被害者を見過ごし、自己責任で対処するよう放置してきたこの国の歴史の蓄積が、今回の対立の背景にあるように思えてならない。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト

コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。