フラッシュバックなど深刻な症状
PTSDになると、実際どのような症状が起きることがあるのだろうか。長江氏によると、フラッシュバックなどの「再体験」、まるで戦場にいるように神経が張りつめる「過覚醒」、思い出しそうになることを避け、無感覚になる「回避」、物事の見方や気持ちが暗くなる「認知と気分の陰性変化」、さらに心を体から切り離そうとして起こる「解離」などがある。
信頼感というものが根底から揺らいでいる状況なので、心の余裕がない。正義感も強くなり、何かの契機で白か黒かのスイッチが入って、グレーゾーンが認識しにくくなる。また記憶がすっぽり抜け落ちることがあり、時系列で話すことを含めて言語化することが難しく、集中力もなくなる、といった症状が出るという。
性暴力被害者がPTSDを発症した結果、こうした状況に陥っている可能性があることが社会的に広く認知されないと、「言っていることが違う」「そういう性格」などと誤解されたり、「嘘をついている」などと疑われたりすることがあるという。被害者が頑張って日常生活を送っていても、理解されずに孤立してしまうこともある。
また、刑法や刑事訴訟法自体、性犯罪被害者にとって平等だとは言えない立て付けになっているため、司法手続きを進める中でそのギャップに直面して、体調が悪化する被害者も多い、と長江氏は言う。
被害者の言動が誤解されるワケ
日本では、伊藤氏の実名顔出しでの告発やジャニー喜多川児童性虐待問題などを経て、性暴力がようやく大きな社会問題として認識されるようになってきたところだ。PTSDを発症した被害者の言動を誤解してしまうのは、トラウマの存在に気づき、理解し、それに応じて適切なケアやサポートをする「トラウマ・インフォームドケア」の考えが根づいていないせいでもある。
「被害者との間で行き違いが起きた時に、それに巻き込まれず、状況から身を引いて考えることができるのは、医学的な脆弱性を抱えている被害者ではなく、健康で余力のある側の方。PTSDに苦しんでいるとどんな言動になることがあるか知っておくと、あれっと思うようなことがあっても、すぐにネガティブに捉えるのではなく、『もしかしたら』と少し対応が優しくなって、互いの思考プロセスがどのように食い違っているか見ることができるのではないか」と長江氏は話す。