「生母のことが知りたい」

「私が担当した子で、『2000年に僕は生まれました』って言っていたから、今、25歳。『生母のことが知りたい』と私に連絡が入ったので、来週くらいにその子と一緒に児童相談所の面談に行きます。養母さんは数年前に亡くなられています。生母のことを知りたいという思いが出てきたようです。縁組みして終わりではなく、親御さんや大きくなった子どもたちとつながりが続いています。縁組みをした女の子の結婚式に呼ばれたこともありました」

矢満田篤二、萬屋育子『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命』(光文社新書)
矢満田篤二、萬屋育子『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命』(光文社新書)

彼女は、養親と一緒にサロンに継続的に参加していて、成長を見守っていた一人だった。養親は彼女が高校生の頃に関わり方についてずいぶん悩んでいた。それが今や、結婚して母親となり子育てをしている。「そんな姿を見るのは『赤ちゃん縁組』冥利に尽きます」と、萬屋さんは言う。

「県外、長野や福井の里親にお願いした赤ちゃんもいます。愛知県の子どもは『愛知方式』でつながっていますね、いろんなところに」

萬屋さんは今日も研修や講演、学習会など、さまざまな活動を通して「愛知方式」を広めるためにアグレッシブに動いている。「家族の出発」に関わった者として、細く長くその家族を応援していきたい、見守りたいという萬屋さん。その生きざまに、一切の迷いはない。

次回はぜひ、「愛知方式」で結ばれた親子に会いに行きたいと心から思う。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)などがある。

萬屋 育子(よろずや・いくこ)
元愛知県刈谷児童相談センター長

NPO法人CAPNA常務理事。大学で教育社会学を専攻。1973年、愛知県職員(社会福祉職)となる。退職後の2011年より愛知教育大学教職大学院特任教授。愛知県里親委託推進委員等、数々の社会的養護下の子どもたちのための活動に関わっている。