「繁殖期」がなくなった謎

【養老】人間がやや特殊だっていうのは、ひとつは閉経期があること。そして、もうひとつは妙なことに繁殖期がなくなってるってことですね。普通の動物はいわゆるサカリがあるのに。

養老孟司、阿川佐和子『男女の壁』(実業之日本社)
養老孟司、阿川佐和子『男女の壁』(実業之日本社)

【阿川】人間はないです……ね。

【養老】別な言い方をすると、人間はのべつ繁殖期なんです。

【阿川】どうして、のべつ繁殖期になっちゃったんですか。

【養老】ひとつの大きな理由は、女性の排卵時期が周囲にも本人にも不明になっちゃったこと。自分がいつ排卵してるかがわからない。他の動物はサカリ、つまり自分が妊娠可能な状態にありますっていうときはサインが出るんです。サルの場合が典型的な例だけど。

【阿川】お尻が真っ赤になって、「今よ!」って。

【養老】ところが、人間はそういうサインがまったく出なくなっちゃった。いつ排卵してるのかわからないから、いつも男をそばに置いておいて年がら年中くっついてなきゃいけなくなった。でも、その交尾が生物学的には有益か無益かわからない。そういうの、ヘンでしょ? 合理的でないんですよ。

【阿川】遺伝子を残すことが重要だと考えるとね。

【養老】子どもを産む能率から言うと、ウサギなんかがそうですけど、交尾排卵がいちばん合理的なんです。交尾をすると排卵する。だから、最も妊娠しやすい。

【阿川】子どもを産む能率って……。愛の問題はどうなるんですか、愛の!

【養老】生物学っていうのは身も蓋もないんだけど、愛は一切考慮に入れてないんですよね(笑)。

養老 孟司(ようろう・たけし)
解剖学者、東京大学名誉教授

1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、447万部のベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)のほか、『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)、『超バカの壁』『「自分」の壁』『遺言。』(以上、新潮新書)、伊集院光との共著『世間とズレちゃうのはしょうがない』(PHP研究所)、『子どもが心配』(PHP研究所)、『こう考えると、うまくいく。~脳化社会の歩き方~』(扶桑社)など多数。

阿川 佐和子(あがわ・さわこ)
エッセイスト

1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒業。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。2012年に刊行した『聞く力』が170万部を突破して、年間ベストセラー第1位に。14年、菊池寛賞受賞。主な著書に『強父論』『ウメ子』『婚約のあとで』『正義のセ』などがある。テレビでは「ビートたけしのTVタックル」などに出演中。