「あいうえお」の法則を胸に生きる毎日
湯川さんは89歳の今でもラジオの番組のレギュラーがあり、その準備のために週のうち3日は書斎にこもって調べ物をしている。音楽評論はもちろん、音楽療法学会の理事でもあり、土日には講演会を行い、ゆっくりと休む暇はない。
「あと何年仕事がやれるか見当もつきませんけれど、でもオファーがあって、体力的にOKであればやっていきたいですね。まだ手をつけていないのですが、来年は1冊本を出す予定でいます」
加えて月に1回は「木曜塾」という会を主催し、著名人やアーティストを呼んでトークイベントも展開している。2025年の10月は歌手の原田真二がゲストだったが、コメントは歯切れ良く、彼との掛け合いも実にお見事だ。
SNSも駆使し、Xで有名なアイドルについて言及したことで大炎上したのは、最近のことだ。
「どんどんリツイートされて新聞記事にもなりましたけど、まあ、いいんじゃない? って感じ(苦笑)。でも、集団になって、意に沿わない意見を攻撃しようとするのは良くない風潮だなと。最近のSNSには精神的に余裕がない人が多いのかなと思いますね」
と炎上も意に介さない。
落ちこむどころか、相変わらず、日本人離れした美しさも保ち続けている。(失礼ながら)手元が見えにくいご年齢のはずが、アイラインもつけまつ毛もキレイに施され、一本千円の三つ編みを使った華やかなドレッドヘア。洋服はハイブランドではないがファッショナブルで、高いヒールの靴も履く。「毎日1時間かけてお化粧して、“湯川れい子さん”に仕上げるんですよ」とユーモアたっぷり。
そして、「今の推しは藤井風さん」と、いい意味のミーハーぶりも健在だ。音楽性の高さを熱く語っており、藤井風のアルバムのライナーノーツも手掛けている。
「私、幸せになるための“あいうえおの法則”を実践しているんです。“あ”は会いたい人に会いたい、“い”は行きたいところに行きたい、“う”はうれしいことがしたい、“え”は選ばせてもらいたい、“お”はおいしいものが食べたい。この鉄則はきっと、誰にとっても生きるエネルギーにつながりますよ」
特に“え”には深い感慨を覚える――。
人生で起きているすべての出来事は自分自身が選んだこと。夫だった男性の不実は許し難いことだが、相手のせいにはしなかった。最後は「元旦ちゃん」と呼び、良好な関係を取り戻したのだから。
きっと最期まで、湯川さんは「あいうえお」を実践し、まっとうしていくのだろう。
取材・文=東野りか
1936年東京都出身、山形・米沢市育ち。1960年(昭和35年)、ジャズ専門誌 『スウィング・ジャーナル』 への投稿が認められ、ジャズ評論家としてデビュー。その後、16年間にわたって続いた 『全米TOP40』 (旧ラジオ関東・現ラジオ日本)を始めとするラジオのDJや、早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がけ、世に国内外の音楽シーンを紹介し続けて今に至る。作詞家として 『涙の太陽』、『ランナウェイ』、『ハリケーン』、『センチメンタル・ジャーニー』、『ロング・バージョン』、『六本木心中』、『あゝ無情』、『恋におちて』などヒット曲多数。各レコード会社のプラチナ・ディスク、ゴールド・ディスクを数多く受賞。ディズニー映画「美女と野獣」「アラジン」「ポカホンタス」「ターザン」などの日本語詞も手がけている。