プレジデント祭を目前に控え、講演に登壇する証券アナリストにして唎酒師、渡部清二さんが獺祭の酒蔵を訪ねた。山口県の獺越おそごえ地区は山深く、崖沿いの狭い土地に10階建ての蔵が忽然と現れる。周辺には精米所や倉庫など、関連設備が点在する。この山間地からどうやって世界に打って出たのか……。桜井一宏社長が、にこやかに出迎えてくれた。

日本各地の酒蔵を訪ねている渡部さんが、思わず身を乗り出したのが麴室こうじむろを案内されたときだ。麴室とは日本酒造りの要中の要。蒸した米にカビの一種である麹菌こうじきんをふりかけ、米の中に浸透させながら育てていく作業だ。若いスタッフ数人が、麹菌が均一に米に付着するよう、手作業で米を混ぜ返す「床もみ」を行っていた。

その規模がすごかった。通常の蔵の麴室に比べれば6~8倍くらいの広さがある。もちろん生産量の多い蔵では、複数の麴室を持っている場合もあるが、「ひとつの麴室でこの広さというのはうちだけだと思います」と桜井社長は話す。室内の温度・湿度管理の精度が高いためにそれができるのだという。「大事なところでは人の手で、そこに機械による効率性が加わっているわけですね」と渡部さんも感心しきりだ。

麴室では、職人たちが手作業で麴米をつくる。
麴室では、職人たちが手作業で麴米をつくる。

かつては効率化を模索し、自動で麴米をつくる「自動製麴機」の導入を試みたことがあったが、「品質に満足できずに人の手に戻したんです」と桜井社長。こうした工夫は随所にあり、品質を高めるための「最適化」を求め続けてきたことが伝わってくる。

こうした人の感覚と機械による効率化が最も目に見える形で表現されているのが分析室だ。理科室を想像してもらえるとわかりやすいが、酒を分析する装置などがあり、品質の向上に欠かせない作業を行っている。麴室が酒造りの入り口の要なら、ここは出口の要といって差し支えないだろう。圧倒的だったのは、壁一面に大量のグラフが張り出されている点だ。前回の記事でも触れたように、酒の状態を実にアナログ的に視覚化している。

壁にはタンク内の状態を把握するデータがグラフで視覚化される。
壁にはタンク内の状態を把握するデータがグラフで視覚化される。

酒造りは、大きなタンクに、麴米、水、酵母、掛米かけまい(麴米とは別に発酵を促すために追加で入れる米のこと)を入れて醗酵させていく。温度が低すぎると米が溶けにくく酵母が活性化せず、温度が高すぎても品質に悪影響が出る。一般的に、酒造りが冬に限定されるのは温度管理がしやすいためなのだ。通年で酒造りをする獺祭では、各タンクに冷却装置を備えており、それにより夏でも酒づくりを可能としているのだが、数百本もあるタンクのひとつひとつにセンサーを取り付け、温度、糖分の割合を示すボーメ値などをモニターし、その値をグラフに毎日に記入していくのである。

「この気持ちはわかりますね」と渡部氏。というのも氏は株のスペシャリスト。「株のチャートも視覚的にとらえて理解できることも多いし、私は新聞記事のスクラップを何十年も続けていますが、それも切り抜いてスクラップ帳に貼っているんですよ」とアナログ的な手法を評価する。とはいえ、PCやタブレットではダメなのだろうか? 桜井社長に問うと「データの扱いとしてはいいのですが、見なければ結局ブラックボックスと一緒ですから。壁に貼ってあればみんな見るので」とのこと。そう話しているそばから、若いスタッフがグラフに値を記入していった。現場から生まれた知恵が、ものづくりの足腰を鍛えていくに違いない。

桜井社長と渡部氏。講演での再会が楽しみだ。
桜井社長と渡部氏。講演での再会が楽しみだ。

小さな木造の蔵から、親子2代で急成長を遂げた獺祭。その秘密の一端をのぞいたわけだが、「供給力」という言葉で桜井社長は締めくくった。蔵の効率化のみならず、品質管理や輸送にいたるまで、注文に応じて必死にとりくんできた結果が、高品質の商品を安定的に供給することだったのである。とかく高品質の日本酒は製造量が少なく「幻の酒」などと呼ばれて珍重されてきた面がある。「日本酒マーケットは希少性に傾きすぎていたという印象がありますね。そこを我々は……」と面白い話が続くのだが、それはぜひ講演で聞いてもらいたい。

ところで、日本酒が世界に誇れる自慢の種といえるのが、世界に類を見ない「並行複発酵」という優れた醸造技術だ。これは麴菌が米のデンプンを糖に変え、酵母菌がその糖をアルコールに変える。二つの菌がタンクの中で同時並行に働いて酒ができるのである。桜井社長と渡部氏の掛け合いも、きっと楽しい話を醸すはず。ご期待ください。

PRESIDENT祭2026に、獺祭・桜井一宏社長と複眼経済塾・渡部清二氏が登壇!

2025年11月26日(水) 講演② 15:05~16:05
イイノホール(東京・霞ケ関)

《変革の一手》
獺祭からDASSAIへ~地方発の産業革命物語

ユネスコの無形文化遺産にも登録された「伝統的酒造り」。その世界に変革をもたらしたのが、山口が誇る名酒・獺祭だ。伝統を革新へと導き、さらに世界へと飛躍する。今年から社名を旭酒造から獺祭(DASSAI)に改め、グローバル展開を目指す桜井一宏社長に、唎酒師でもある経済アナリスト・渡部清二氏が鋭く切り込む。日本の伝統産業が世界に打って出るための秘訣を探る。

開催概要

日時:2025年11月26日(水)
開場・受付 12:30 開演 13:00 終了 19:20(予定)

会場:イイノホール
東京都千代田区内幸町2‐1‐1 飯野ビルディング4F
●東京メトロ 日比谷線・千代田線「霞ケ関」駅 C4出口直結
●東京メトロ 丸ノ内線「霞ケ関」駅 B2出口 徒歩5分
●東京メトロ 銀座線「虎ノ門」駅 9番出口 徒歩3分
●都営地下鉄 三田線「内幸町」駅 A7出口徒歩3分

参加費:1,500円
形式:リアル開催
※オンライン配信の予定はございません。

定員:350名
※定員になり次第、締切となります。

主催:プレジデント社

協賛:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、デロイト トーマツ グループ、日本たばこ産業株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社三菱総合研究所 ※五十音順

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【本講演の留意点】

●動画・写真撮影について
イベント当日は記録・広報等のため、動画・写真の撮影を行います。撮影した素材は弊社・協賛社メディアでの配信や掲載に使用する場合がございます。予めご了承ください。
●参加者の撮影・録音・録画について
会場内の撮影・録音・録画は一切お断りしております。予めご了承ください。
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プログラムおよびスケジュールは予告なく一部変更になる場合がございます。予めご了承ください。
●開催について
会場の設備故障や天災、都からの要請など不可抗力の事由により、やむを得ず中止や時間変更になる場合がございます。予めご了承ください。

(文=水谷宗基)

〈PRESIDENT祭2026〉必見の豪華講演!