この女性はまさに変態だ
映画字幕翻訳家のレジェンド・戸田奈津子氏(89)を取材したその日、筆者は電車に乗って取材場所に向かったのだが、“変態”についてのある中学の入試問題を社内広告で目にした。そこには、建築家の小堀哲夫著の『建築家のアタマのなか』から抜粋されたセンテンスの中に、氏が考える変態とは何かが記されていた。
(以下抜粋 出典=日能研2025年額面広告より)
なぜ建築家には空想力が必要なのか(中略)。人を感動させられる“場所”をつくるのには空想力が必要だと思っている。空想と想像にはちがいがある、空想には変態さがある。この言葉を誤解しないでほしい。辞書を引いてみると、変態の言葉の意味の一つに――ふつうとちがう状態。一ぱん的な感覚からかけはなれた趣向・方向性という意味でこう定的に用いられる場合もある(中略)。僕が言いたいのは、この辞書にあるように、自分の感覚や欲求、しょう動を純すいに、どん欲に追い求めていくことだ(後略)。
建築家と字幕翻訳家の差はあれど、戸田さんの仕事人生を伺った時、この広告を思い出した。自分の感覚や欲求、衝動を純粋に、貪欲に追い求めてきた、いい意味での“変態”そのもの。だからこそ人を感動させられる作品を生むことができた。