日本の閣僚が海外出張したGW真っ只中の5月2日、オバマ米大統領が空席だった通商代表部(USTR)代表に米金融大手シティグループ出身のマイケル・フロマン大統領副補佐官を指名した。TPPの所管部署であるUSTRのマランティス代表代行が、「2013年外国貿易障壁報告書」の要求に応える形で、「日本は農産品と工業製品を交渉対象とする包括的協定を達成すると確認した」との書簡を米議会に送ったのは4月24日。日本を徒手空拳のままTPPに引きずり込むシナリオが着々と進んでいる。

書簡送付に先立つ3日前の21日、マランティス氏はインドネシアで「TPPは米国の雇用と投資戦略の基盤」と明言、USTR新代表の指名日には「センシティブな品目はすべての国にある。日本ともこれを解決していく」とも発言した。

ところが、主要各紙はこの発言を「日本の特例措置要求に一定の理解を示した」と解釈し、あたかも米側が譲歩しているかのように報じた。

日本のTPP交渉参加を米政府が米議会に通知したのが4月24日で、7月23日までに了承される。他方、5月はペルー会合、7月には正式参加表明に追い込まれ、9月会合後の10月には参加国首脳会合。そして年内妥結というハイペースだ。しかも、既存11カ国以外にはルールが開示されない。そのため、日本側は戦略の立て方が極めて難しい。主要各紙は「初交渉のテーブルとなる首席交渉官会合の日程と交渉期間の延長を期待し、その根回しで閣僚がGW中に各国に飛んだ」と報じているが、与党農水族議員の私設秘書はこの見方を否定する。

「日程の延長を交渉するのは準備が必要だからだが、準備が必要なのは状況が不明だから。実は、これまでの会合の内容がまったくわかっていない。閣僚の海外出張は、先行する交渉参加国の首脳からそれを何とか聞き出そうと焦っているからだ。4月末にワシントンで西村康稔内閣府副大臣が『形式的参加ではなく、実質的に交渉の中身に入れる形での参加を』と米側に陳情したのは、日程延長の交渉のためだけではない」

交渉参加→加盟の後、米国は公知の関税撤廃論を持ち出して密室で怒鳴り始めるに違いない。その“補填”に別の貢ぎ物を差し出さねばならなくなるであろうことは、過去の日米交渉の歴史が語る通りだ。

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