あの日から2年が経過した。もう2年、まだ2年だ。毎年この時期になると、東日本大震災を忘れまいとするかのように、多数の書籍が出版される。本書もその中の1冊である。著者は『イントゥルーダー』でサントリーミステリー大賞を受賞した小説家の高嶋哲夫だ。ふだんは小説を読まないのだが、高嶋哲夫のパニック小説だけは別格である。『M8』と『TSUNAMI 津波』は繰り返し読んだ。

『M8』は首都直下地震を想定したフィクションであり、『TSUNAMI 津波』は東海・東南海・南海地震の同時発生を警告した小説だ。それぞれ2004年と05年に出版されている。この2冊を読んだ当時は、小説家の想像力に感嘆したものだが、東日本大震災を経験したあとでは、人間の想像力には恐怖という限界があるのだと知った。実際に福島原発で起こったことは小説でも想定外だったのである。国や東電などの防災担当者がこれらの小説を読んでいたら、東日本大震災の被害はもうすこし小さくてすんだのではないかと悔やまれる。

本書は『TSUNAMI 津波』が想定した東海・東南海・南海の巨大連動地震について、県別に客観的なデータを提示しながら、それをシミュレーションしたショートノベルを差し挟んだ現実的な警告の書である。災厄を東京都から宮崎県まで13の都府県別に予想するというものだ。たとえば「静岡県」の項では、まず過去の地震で実際に発生した東名高速道路や新幹線の寸断のデータと、南海トラフ巨大地震が発生したときの予想データを提示する。南海トラフ巨大地震では、下田を33メートルの津波が襲うと予想されているのだという。

著者はそのうえで、浜松近くの海岸で海水浴中のある親子が遭遇する津波の様子をイマジネーション豊かに描きだすのだ。読者はここで津波は海辺の町に住む人たちだけでなく、行楽で海辺を訪れている人たちにも襲いかかるのだということに、気づかされることになる。

「愛知県」の項では、名古屋圏が世界のGDPの1%を占める世界経済にとっても重要な地域であることを説明したうえで、現在の防波堤では強度もなく、液状化によって3メートル近い地盤沈下も起こるため、津波の侵襲は避けられないことを説明する。名古屋市の海抜ゼロメートル地帯の広さは日本最大であり、大きな地下街が広がっているという。

これを受けてシミュレーションノベルは、津波避難ビルに辛うじて逃れた主人公が、名古屋市を襲う津波だけでなく、名古屋港のタンカー火災を呆然と眺めているシーンで終わる。高度に工業化された地域を襲う津波は、東日本大震災とは別次元の災厄をもたらすことを改めて知ることになるのだ。

その瞬間、自分を守れるのは自分自身だけだ。本書はそのイメージトレーニングをするための格好の訓練書である。