失敗しても挑戦を。評価は加点主義

米国では、何もしないで失敗もしない人よりも、挑戦して失敗した人のほうが評価されるし、尊敬もされる。挑戦する姿勢にこそ加点する。日本では、失敗すると減点するだけで、再挑戦もさせない。だから、はじめから、挑戦しなくなる。

社長になって、新しい評価基準を打ち出した。挑戦して成功した人が高得点、挑戦したけど失敗した人は中くらい、何もしない人は零点と、「加点主義」にした。賞与も同様の基準にしたので、チャレンジ精神に欠ける社員は、二重に差が付く。50歳同士で比べると、年収で100万円単位の違いが出た。

91年、約30人が宿泊できる研修所を新設する。京都市内から車でいけば、3千院のある大原を抜けて約1時間20分、琵琶湖西岸の朽木の森の中にある。ロビーラウンジの中央に、大きなオープン暖炉を据えた。小さいころ、薪をくべて風呂を沸かしたときに知った、心を落ち着かせる輻射熱が狙いだ。研修の後で暖炉を囲み、自由に飲める酒類を手に、ふだんなかなか会えない同士が、連帯感を深めてもらいたい。暖炉は、夏も燃やしている。

自分は研修が嫌いだった。でも、「自分と同じ経験は誰もできない。やはり、研修をやって、いろいろな経験を言い伝えていく仕組みが必要だ」と思った。何よりも重視したのは、社員みんなが、いきたくなるような施設にすることだ。床暖房や檜風呂、サウナなどを揃え、寝具は羽根布団。食事も四季折々の食材を使い、プロの料理人の腕を味わってもらう。贅沢にはならない範囲で「一流」とはどういうものかも、知ってもらうためだ。

2009年に新棟を増設した。リゾートホテル風で、100人が宿泊できる。もちろん、オープン暖炉を置いた。同時に「HORIBAカレッジ」を開設し、約100の講座を用意する。講師は、ベテランの社員たち。経験では、外部の著名人に話をしてもらっても、「別の世界のこと」として、右から左へ抜けて終わる。やはり、何か「共通の関心事」が出てこないと、頭に残らない。今年で創立60年に及ぶ会社の歴史を2、3時間に凝縮し、大河ドラマ風に伝える講座もある。ここにも「おもしろおかしく」の精神がのぞく。いま、週末は予約で満杯だ。「有志者」が集い、自分を磨いて、次々に「事竟成也」となってほしい。

京都には、社風も技術もユニークな企業が多い。どこも「他社とは違う、世界でずば抜けた強さ」を目指す。自分の責任でやる、強い意思でやり抜く、そして他社の追随はしない。堀場の企業文化も、この京都精神に基盤がある。規模の追求よりも独自性の重視。当然だ。何しろ「おもしろおかしく」が社是なのだ。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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